Ge×3

□連載1
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匣入少年










怖い、強い、恐い。

独りよがりな感情が、
誰かを傷付けている。

そしてそれを思う度に、
私の心はヒリヒリと、
厚かましくも痛むのです。







4:監視と一族








与えられた部屋は牢獄とは違い、
防寒も布団も充分で。
更に用意された朝食は、
それこそ豪華では無かったが、
罪人に向けた味とは思えない。
蒼坊主は自分が本当に罪人で、
軟禁状態にあるのかが疑わしくなった。

が、それを改めて感じさせられたのは、
散歩に出たいと申し出た時だった。



「それは結構ですが…黒鴉殿から
貴方には監視を付けるよう御達示が
ありましたので…」



と、このような経緯を経て、
蒼坊主は今何処に潜んで居るか
わからぬ監視役を付けられながら、
ただ敷地内を散策をしていた。

しかし散策と云っても、
先程から周りは木と木と、木。
本当に何も無い場所で。



『…鬼太郎は何処に居るんだろうか。』



自分の出て来た建物から少し離れたが、
本当に入り組んだ造りをしている。
きっと探すことも難しいだろう。

そう蒼坊主が悩んでいると、
目の前に見覚えのある鴉天狗を見つけた。



「あ、お前らは…」



鬼太郎が牢獄の蒼坊主を訪ねた時、
護衛として付いていたあの二人の
鴉天狗が、そこにいた。

ふたりは蒼坊主に気づくと、
何やら足早に近付いて来て。
最初に話し出したのは、
背の高い方だった。



「あ、あんた…大丈夫だったのか?」

「あぁ、この通りぴんぴんしてるぞ。」



蒼坊主はとりあえず自分が軟禁状態で、
しばらく此処に居ることや、自分には
何人か監視役が付けられていることを、
二人に伝えた。

すると背が低い方の鴉天狗が、
思い出したように言った。



「そういえば…俺達が鬼太郎様を
お前さんの所に連れて行ったこと、
黙っといてくれてありがとうな。」

「まったく…いくら鬼太郎様の
命令でも、黒鴉様に知られちゃあ
俺達も首に掛かるんでな…」

「お、おいおい…」



今此処で監視役にでも
聞かれてたらどうすんだよ。
そう蒼坊主が肝を冷やしながら注意した。

しかし背の低い鴉天狗は、
「あいつらは見てるだけで、
何ら聞いちゃいない。」などと言う。
しかしそれでも心配な蒼坊主は、
小声で話すことにした。
今こそわからぬ事を聞く機会だと。



「しかしよ、一体あの子は何なんだ?
お前らは鬼太郎様って恭しく呼ぶが…
あまり慕ってるようにも見えねぇぞ。」

「あぁ…あの方はな、実は
あの幽霊族の末裔なんだよ…」

「幽霊…族?……何だよそれ。」

「何だお前さん!幽霊族を知らねぇのか?」



背の低い鴉天狗は、
呆れたような物言いをする。
しかし背の高い方も驚いていた。

ふたりは交互に鬼太郎の説明を始めた。



「幽霊族てのはな、今も謎が
多いからよく知られてねぇが、
そりゃ恐ろしい一族なんだよ。」

「それだけじゃ無ぇぜ。
今まで幽霊族の血に触った奴は
その瞬間に死ぬと言われてる!!
言わば鬼太郎様は呪われた一族
唯一の生き残りなんだよ。」

「だから俺達は鬼太郎様を狙う輩から、
そして俺達自身を守る為に鬼太郎様を
このように幽閉しているんだ。」



話すだけでも恐ろしいと震えるふたりに、
蒼坊主もただゴクリと固唾を飲むしか
なくて。

しかしあの小さな子供が、
そんな恐ろしい存在だなんて…。

俄かに信じられない話だが、
このふたりの鴉天狗の真剣な様から、
それは信用しても良さそうなもので。



「…おっと、そういやぁ俺達、
これから森に巡察なんだった。」

「そうだ、早く行かねぇと
どやされるな…じゃあな!」



鴉天狗のふたりはバサリ、
と羽を広げて森へと去って行った。

その後ろ姿を見て、
蒼坊主はふと呟いた。



「……あれ?ここ、何処だ?」



周りは木々だけだった。
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