Ge×3

□連載1
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匣入少年





手足を繋がれているわけではない。
なのにどうして不自由を感じるのか。

水も食事も充分に与えられる。
なのにどうして渇きを感じるのか。

元より世間に期待など無い。
なのにどうしてこうも物足りないのか。

今日も強欲な五感を抱えながら、
温い空気を吸い込みながら、
生きている。








3:囚人と敵意








真っ黒な羽を携えて現れたのは、
先程の二人とまったく違う雰囲気の
鴉天狗。

纏う空気は重く、鋭い目線。
そしてそれを云う以前に、
こちらに向けている意識的なものが、
まったく他と違う気がする。

そうか、コイツが黒鴉か。
蒼坊主は再認識した。



「鬼太郎様。私は貴方様に決して、
お部屋をお出にならないようにと、
申し上げたはずですが…」

「あ、ご…ごめんなさい。」



奇妙な主従関係だ。
幼い子を敬う口調でありながら、
そこに絶対的な支配を孕んでいる。
目の前の相手を子供と認識しながら、
敢えて甘えを許さぬ威圧感を放つ。

鉄格子を介している蒼坊主でもわかる、
あからさまなそれを受けた鬼太郎は、
申し訳なさと恐怖に黙り込んでいる。



「此処まではお独りで?」

「はい…っ」

「……このような粗悪な場所に?」



冷たい視線で突き刺すのは、
少年の行為か、獄中そのものか。

何れにせよ今黒鴉が睨んでいるのは
鉄格子の中、蒼坊主だった。



「…とにかく、此処の入口に私の部下を
待たせておりますので、どうか其奴と
私をお待ち下さい。私はこの囚人と
少々話がありますので…よろしいですね?」


有無を言わさぬ物言いで、
黒鴉は鬼太郎をその場から
退場させた。

最後に小さく手を振るその様は、
やはり幼い子供の仕草なのに。

それなのに。



「…さて、よろしいですか?」



返事をしようてしたら、
ああ貴方は一応罪人なので、
許可なく話さないように。
などと言われた。

罪人、とは一体何の罪なのだろうか。
そして一応、とはどういう意味なのか。
今や発言権の無い蒼坊主の中には、
疑問がぐるぐると混在している。



「今回貴方は"鬼太郎様"との接触による
罪により捕らえたわけですが…、
特に危害を加えたわけではないと
判明しました。」

「じゃあ…」

「黙って下さい斬首になりますよ。
余計な仕事は増やさないで頂きたい。」

「…。」

「さて、実情貴方は無罪なのですが、
諸事情により貴方を軟禁させて頂きます。」


黙るほか無い蒼坊主は大人しく、
淡々と語られる自分の処遇を聞く。

黒鴉が言うには、蒼坊主はまだ完全に
疑いが晴れていないことと、用心の為に
という理由でしばらく軟禁されるらしい。

他にも館内の一室が宛がわれること、
いつ解放されるかは不明だということが、
ざっくばらんに説明された。



「…では、最後に質問などありますか?」



蒼坊主が黙って手を挙げると、
本当に質問するとは…と云うような、
半ば呆れた顔でどうぞと返される。



「…なぁ、あの子は何なんだ?」

「答えられません。」

「じゃあ何故こんな所で暮らしてるんだ?」

「答えられません。」



これじゃあ質問にならないじゃあないか。
そう文句を唱えようとした時、
鉄格子から腕が伸びてきた。

そしてそれは容赦無く、
蒼坊主の胸倉を掴んで。



「っ…な、にを…!」

「これ以上首を突っ込むな下郎。」



たかが旅人の分際であの方に触れて、
命があるだけ有り難いと思え。
あの方が生かせと命じたから、
お前は今此処に居るものを…
貴様などあの時殺してしまえばよかった。

先程の冷静な態度とは裏腹に、
真摯な憎しみを瞳に込めて、
黒鴉はそう静かに罵る。

極め付きには蒼坊主をその場に打ち捨て、
食事が済んだら部屋に移送するとだけ
言い残し、黒鴉はその場から立ち去った。



ただ、唖然とする蒼坊主を残して。







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