Ge×3

□連載1
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匣入少年










いつも手を伸ばしてみるのです。
でもすぐに引っ込めてしまうのです。

何が恐ろしゅうてそうするのか、
何を思うて手を出してみたのか、
何もかもわからないままこの手を仕舞う。

何に襲われるかも、知らないくせに。

さぁご覧になってほら、
無知な私はなんと滑稽なんでしょう。







05:偶然と羨望








参った、完全に迷った。
そう思う頃には時は既に遅く、
右も左も判らないのは毎度のこと。

いい加減馴れた嫌気に、
蒼坊主はため息を吐いて。



「…弱ったなぁ」



周りには白い建物と、
延々と続く雑木林。

変わらぬ風景に苛立ちを覚えた時。
ふと目の前に人影を見た。
それは見慣れない、
ひとりの鴉天狗だった。



『よかった、コイツに道を尋ねよう。』



白い建物の真ん中に立つ
その背中、見回りからか
キョロキョロとする彼に、
蒼坊主は近付いた。




「おい!そこのアンタ。」

「っ!!」

「へ?!あ、ちょっと待て…!」



その鴉天狗は蒼坊主を見るなり、
血相を変えて森の何処かへ
走り去ってしまった。

やはり監禁された身の自分は、
嫌遠されているのだろうか…

そんな疑念が湧いた蒼坊主は、
ふと足元に視線を落とした。



「…ん?」



建物と地面の間に、
ちょうど足首までの高さの、
小さな鉄格子のようなものが目に付いた。

それはまるで通気孔のようで、
蒼坊主は屈んでそれを覗き込んだ。



「…部屋、か?」



予想に反して、通気孔の向こう側は
地下に作られた一室の部屋だった。
それも真っ白な天井、壁、扉、
覗く真下にある寝具も白い、
実に殺風景な部屋だ。

覗く鉄格子はちょうど天井付近で、
それは部屋に明かりと空気を、
申し訳程度に通しているようで。



「なんだか…」



寂しい、というより空虚な部屋だ。
覗くだけでこんなに心苦しいのに、
此処に住まうのは誰か…まさか、

推測を巡らせていると、
真下から声が聞こえた。

ずっと聞きたかった、
しかし願わくば聞きたくはなかった、声。



「蒼…兄さん?」

「やっぱり、鬼太郎か!」

「蒼兄さん!」



うずくまった部屋の隅から
駆けて来て、寝具の上に立つ。
それでもやっと顔が見れる程の
小さな姿は、やはり鬼太郎だった。

別に窶れても(ヤツれても)
疲れてもいない互いの姿に、
両者は一先ずほっとする。

蒼坊主はとりあえず自分の置かれた
立場や、今の所不自由が無いことを
鬼太郎に伝えた。



「よかった…蒼兄さんが無事で。」

「お前も無事で安心した。
ずっと、此処に入れられてたのか?」

「いいえ。毎日部屋を変えられるので、
明日にはまた別の場所に行きます。」



「黒鴉さんが毎日違う場所に
移動した方が安全だと考えたらしくて。」
と言う。

またアイツか、と恨みでは無いが
少々憎くも思う男を思いながら、
蒼坊主はふと思っていたことを
鬼太郎に聞いた。



「なぁ、お前は別の暮らしを
してみてぇとは思わねぇのか?」

「え?」

「此処から出て、
もっと自由になりたいとか…」



蒼坊主の言葉に、
鬼太郎はしばらく黙る。

そして返事に出たのは、
『わからない』と言うのだ。



「僕はこの生活以外知りませんから。」

「……そうか、」



どんな言葉よりも、
胸が痛い気がした。

蒼坊主の顔が見えているわけでは無いが、
鬼太郎は気を遣うように話の間を詰める。



「自由って、何なんですか?」

「自由、か……それは、」

「!」



ガチャン、と言う音に、
鬼太郎が目を見開いた。

どうした?と聞く前に、
何やら食器が揺れる音がした。



「食事係が来ました。
早く此処から逃げて…!」



扉の開く音と共に、
蒼坊主は反射的に走り出した。

もちろん後ろ髪を引かれた。
やっと、再会出来たのに。






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