Ge×3

□SSS
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*蒼←黒です












私の居る場所からは、
海など見えません。

朝も夜も四六時中、
山々に囲まれている。
その中で囚われた囚人を見張り、
私は私自身に囚われている。



黒鴉という私の名前は、
私を此処に縛り付けるのです。

この父との因縁深い、
深い深い山奥に。








此処に在るはずのない海の底








「黒鴉!」

「…蒼坊主殿」

「久しぶりだな。」



旅をしている自由な貴方は、
日焼けをした眩しい笑顔で、
私に微笑む。

自分に囚われている
私の心中など、
何も知らないで。



「またずいぶんと日焼けましたね。」

「真っ黒だろ?なに何せ何日も
海辺を歩いて来たんだ。」

「ああ、それで。」



そういえば貴方の髪は名前の如く、
蒼く輝いていますね。
その眩しい笑顔に、
よくお似合いですよ。

などと言う勇気もなく、
私はただ取り留めのない話を続けた。



「いやー…それにしても暑かった。」

「本当に、お疲れ様です。」



彼は目玉親父殿からの言付かりを、
大天狗様に届けるために来たのだと言う。

しかしそれなりに長い廊下を渡るには、
それは少し短い話のようで。
蒼坊主殿は先程の話を思い出したのか、
再び口を開いて。



「なぁ、お前は海とか、
出掛けたりしないのか?」

「…えぇ、此処は内地ですし、
滅多に外に出ませんから。」



私の周りは山ばかりで、
海など見たことはありません。

そんな自虐めいた話でも、
貴方は軽く笑い飛ばして。

その軽やかさが、
また私を引き込んでゆく。

引き込まれてゆく。



「ふぅん…それでなのか?お前の肌の色は、
他の奴らより明るいよな。」

「え…ああ、これは私が異質なだけで…
特に関係はありませんよ。」



私は他の鴉天狗達と比べ、
髪と肌の色が明るい。
幼少の頃からこの目立つ見た目が、
嫌で嫌で堪らなかった。

この人もやはり私を、
奇異な目で見ているのかと、
私は静かに落胆しようとした。



「鮮やかで、海みてぇだよな。」



蒼坊主殿が私の頬に、
その日焼けた手を差し延べた。

そして笑うのです。
綺麗だと言って、
それは眩しく。



「海、いつか見に行こうや。」

「ええ…」

「この季節は特に綺麗だぞ!」



夏の盛りを唄う蝉の声が、
急に遠くなったような気がした。

私も何と儚い思いを、
抱いてしまったのでしょうか。










此処に在るはずのない海の底


私だけが、
沈んでゆく。









*****************


暗く片恋する黒鴉^^

なんか蒼兄はサラっと無意識に
カッコイイことを言うイメージが…


御完読ありがとうございます!
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