キリリク部屋
□あなたのいない、世界なんて
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―信じられなかった。
「っ?!おい、しっかりしろ!!」
あいつが、殺られるなんて。
「…どうして、お前が…っ。」
これは、悪い夢だ。そう信じたかった。
でも、手にこびりつく生暖かい血の感触、腕の中で冷たく、そして徐々に消えゆく体の感触が、これは現実であると伝えているようだった。
「…どうしてっ…どうしてお前が!!」
―ナイトメアが死んだ―
その知らせをエースから聞いた時、ユリウスは衝動に駆られてなのか、とにかくナイトメアのもとへ向かった。
ナイトメアとユリウスは、お互いに愛し合っていたのだ。
だからこそ、ユリウスは走った。
いつものユリウスらしからぬ行動に何より驚いたのはユリウス自身だったが、今はそれどころではなかった。
「ナイトメアっ…」
ユリウスは、とにかく急いでナイトメアのもとへ向かうしかなかった。
「嘘、だろう…?」
ユリウスはつぶやいた。
その目の前には、木々にうもれるように、けれども鮮やかな鮮血に彩られ、その中に横たわる愛しい人の姿があった。
心臓部を拳銃で一発で貫かれている。おそらく、相当手慣れたものの仕業だろう。
「おい、しっかりしろ!!」
ユリウスは必死に問いかける。
すると、まだかすかに息があるのか、ナイトメアはユリウスの手を握って、最期というかのように言った。
「…ユ…リウ…ス……」
「…!!大丈夫か!!すぐに時計塔に帰って…」
「もう…私は駄目だ……時計…が…壊れかけて…いるよう…だ…」
「それなら、私がすぐに直してやる!!」
ユリウスが言っても、ナイトメアは力なく首を振った。
「もう…いいん…だ…。」
「そんなこと……言うな…」
ユリウスの目には、自身でも驚くくらい、涙が溜まっていた。
「私は…ユリウスと過ごせて…本当に…よかった…」
「…ナイト…メア…」
「ユリウス…これだけは、忘れないで…くれ……私はお前を…愛し…て…る…」
「ナイトメア…?…!!」
ナイトメアは、最期のユリウスへの愛の言葉を紡ぐと、自身の体を徐々に失い、やがてユリウスの手の中に残されたのは、たった1つの壊れた時計だった。
「…っ…う……」
ユリウスには、ただ残された時計を握りしめながら、静かに愛する人への涙を流すことしか、できなかった。