白昼夢
□Dark Diary
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11月10日〈あの日に君は言っていた〉
昨日はベルリンの壁が崩壊した日だったらしい。あれから一年が経つ……否、経ったのだろうか。
彼等にもらったものは尊くて、手が届く範囲に君たちはいた。いつしか溝を君は感じた。『壁』。それが私達は壊したかった。壊れたと思ってた。
そんな容易いものではなくて、壁を感じた君はもうその壁の存在を忘れてしまったみたいだね。
代わりに私達が感じた。
だから僕が現れた。
彼女にも一人現れた。
もう一人の僕らは笑顔を造る。
心の内がバレないように。
壁を造った彼等に僕らの壁が見えないように……。
君等は言った。「壁は俺らの間に必要ない」と。
君等が造る壁はそうかもしれない。
でも、僕らの壁はまた違う壁。
君等と僕らの関係を守るため。
誰も傷つけたくないから。
いくら僕らが傷付いたとしても……
この壁は知られてはいけない。
君等を守りたいから。
ベルリンの壁……。崩壊までに時間がかかった壁……。
僕らの壁はまだまだ崩壊までに程遠い。
なぜなら、彼らはその存在にも気が付かないから。
僕らは笑うよ。君等の横で。
本当の顔を隠したまま……。
「壁を壊したい」
あの日の君等の言葉
あの日の私達
今となって、僕らは何を望めばいい?
時にオレは思い出して苦笑した。
一年前のあの日の笑顔……。
私が笑っていた日々を……。
ただ僕は彼らの笑い声を聞いている。
遠く離れたこの位置から……。
この距離で眺めよう。
呼ばれてもあそこに私は行かない。
行くのは僕。
あそこに行ったら……
その先はきっと今の君等にはわからない
ベルリンの壁……
崩壊して喜ぶ者たちの顔を思い浮かべた……