幻便

□想いをのせて
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ブランコの音――
小学生の無邪気な笑い声が聞こえる場所……。
「あ! もう帰るみたい。ケント君バイバイ」
「バイバイ」
そんな声も聞こえてくる。子供たちは、次々に自分の家へと帰っていく。

静まった広場――。

一方、その奥の雑木林ではその時間を見計らったかのように……

カサカサカサッ……

狐が現れた。
彼は雑草を抜こうとしていた。
「君、山から下りてきたの?」
制服を着た少女は狐に尋ねる。
狐はすぐに向き直り、少女に向かって警戒体制をとる。
少女はそれにも関わらず彼に話しかける。
「それが欲しいの?」
すると狐は小さな声で悲しげに鳴いた。
「ちょっと待っててね……」
少女は近くに行き、その花を抜こうとした。
傍らで狐はそれをそっとみつめる。
「ほら、これでいいの?」
そのとれた花をそっと地面に置く。すると狐はどこか遠くへ行ってしまった。
少女は首を傾げて、その花をじっと見る。


カサカサカサッ――
遠くから聞こえてきた音とともに、狐が現れた。
今度は口に何かをくわえているようだった。
それをその蝶の形をしたピンク色の花の横にそっと置いた。

「私にくれるの?」
少女はそれを拾い上げた。それは、色鮮やかな紅葉の葉だった。
「ありが……」
少女がお礼を言おうとすると、すでに狐はいなくなっていた。

少女はただ、その貰い物を見つめた――


 
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