夢旋律
□RAINBOW FLOWER
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『RAINBOW FLOWER』
そこは、街から離れた小さな家。
貧しいけれど、その家からは、絶えることのない笑いで満ち溢れていました。
その家には、不思議な花が咲いていました。とても大きく、太陽の光がよくあたる場所に、そよ風を受けながらそびえています。一人の母親が咲かせた花でした。
その母親の息子達が、幼い頃から咲いていて、色褪せることも、枯れることもありませんでした。それどころか、日がたつにつれ、その美しさは増しました。
「お母さん、どうして、その花はきれいなの?」
長男が尋ねました。
「しかも、その花は普通の花とは違うよ。枯れないもん」
続いて次男が。
「それに、虹色に輝いているんだ」
三男が言いました。
母親は笑顔で答えました。
「それは、簡単な質問ね。だけど、私がそれをただ教えるだけでは、意味がないの」
母親は水がたくさん入ったジョウロを置き、三人の息子を眺めました。
「そうねぇ……。じゃあ、その秘密を知りたいなら、この種をまきなさい」
彼女は、小さな三つの種を、一人一人に手渡し、言いました。
「これはね、この『レインボーフラワー』の種よ。上手く育てれば枯れることはないの。育てる人のこ……」
何を言おうとしたのでしょう? 何かを言いかけ、ためらいました。そして横に首を振り言い直しました。
「育て方は、あなた達に任せるわ。その方が分かってくれるでしょうしね」
そして、三人の子供は、「咲かしてみせる」と、意気込み家の中へと駆け込みました。
まず、植木鉢を用意して、土を入れて小さな穴をあけて、種を埋め込みました。三人とも同じように、そしてそれぞれの部屋へと、持っていきました。
三人とも簡単に咲かすことができると思っていました。
三人が集まると決まって、自分の種の話しをしました。
そして、何日かたつと、次男と、三男の芽が出てきました。しかし、何故か、長男の芽だけは、出てはきませんでした。何日待っても、出てくる気配は、ありません。
長男が、廊下を歩いていると、こんな声が聞こえました。
「早く伸びろ! ちっとも伸びないじゃないか!」
そう言って、怒鳴っていました。それは次男の部屋からでした。
「なにをやっているんだ?」
次男に尋ねました。
「決まってるよ。育てているんだ。どこかの昔話では、カニが芽を脅して、立派な実をつけさせることができたっていうから、僕もそうしてみたんだ」
これを聞いて長男は納得しました。彼は、もともと無口で、今まで種に話しかけることはありませんでした。ただ黙々と水をあげていただけでした。だから、それを、参考にして、育てることにしました。
確かに、芽は出てきました。長男は、喜びました。二人はこの調子で、花を育て続けました。
しかし、何日経っても芽がそれ以上成長することはありませんでした。もちろん、長男のも次男のもです。
二人がそのことについて、相談して歩いていると声が聞こえてきました。三男の部屋からです。
「お願い。お花さん。きれいなお花を咲かしてね」
そう言っているのが聞こえました。三男の種は、透明な花を咲かせていました。
長男と次男は尋ねました。
「何してるんだい?」
「決まってるさ。お願いしているんだ。花がきれいに咲くようにね……。人間だって頼まれれば、やるもんでしょ?」
そこで、長男も次男も気づきました。今まで脅していたことに……。それではいけないことに……。人間に接するように、優しい言葉で話しかけることが大切だと……。
それから三人は、無事に花を咲かせることができました。しかし、彼らの母親のような『虹色の花』ではありません。透明な花はなかなか色づきません。兄弟は不思議に思いました。確かに、透明な花はきれいでしたが、彼らにはものたりなく思ったのです。
そこで、三人は母親の育てている花を見に行きました。
すると、優しい歌声がきこえてきました。
大きくなれとは言いません
ただただあなたがいるだけで
私達は癒される
背伸びしろとも言いません
だってあなたは一生懸命
いつだってお日さま
みつめてる
だけど輝き失わないで
必要なのは
あなたなの
あなたをきっとほっときません
いつでもあなたをみつめてる
争いだって望みません
いつだって幸せ考えましょう
お願いばかりもわたしはしません
あなたへの感謝もします
虹色のお花さん
ここまで育ってありがとう
心の花も
磨きます
今日も一日をありがとう
それで、兄弟達は知りました。自分たちに欠けてたことを……。
無視することはとても孤独なこと。ほっとかれる寂しさが花にもあるということ。怒鳴られ続ける苦しみ。それは、まったく楽しくないことを。お願いするだけで、一方的なつらさ。一生懸命なのにわかってはくれないこと……。
母親は三人の息子達に気づきました。彼等を見て微笑み、
「あなた達、わかったわよね? よく頑張ったわね」
そう言って、しゃがんで、三人の頭を撫でました。そして、花のほうを向き、こう続けました。
「この花は心の花なの。その人の心によって、花の色が変わるのよ」
一つの家族は、眩しく輝く太陽を見ている花をじっとみました。
「あなた達なら大丈夫。もっともっときれいな花を咲かせることができるわ。私、信じてる」
母親は、誇らしげに言いました。その顔は、少年達には、花よりも輝いてみえました。
それからというもの、四本の虹色の花は、その家に高く、高くそびえています。以前よりも、笑顔が絶えることはありません。
レインボーフラワー。それは、一人一人の中に咲いている花。今日もその花は何処かで、芽を出そうと、花を咲かせようと、虹色になろうと、待ち続けている……。