世界を繋ぐ扉

□ONE DAY
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 いつものように、夕食の支度の手伝いを終え、梓は兄の啓を呼びに行く。
 しかしその表情は厳しくて。
 いや、梓は緊張しているだけである。毎日こうなのだ。
 階段を一つずつ上がりながら、呼吸を整える。
 とても心臓が五月蝿い。
 正直、啓を呼びに行く、という仕事は、したくなかった。
 嫌悪から来ているものではない、むしろ、兄とはもっと関わりたいのだが。
 そうさせてくれない、何かが、梓と啓には有って。
 いや、梓は多分、一方的に啓に有ると思っている。
 と言うのも、兄である啓とは、梓は半分しか血の繋がりが無く。
 啓は母親がちゃんと結婚して生んだ子供だが、梓は実は母親が不倫して生まれた子。
 それが原因で、両親は離婚。
 2人は母親に引き取られ、3人暮らし。
 梓がこの事を知ったのは、3年前。
 今の今まで普通の家族だと思っていた梓には、ショックが大きすぎた。
 それと同時に、ああ、とその時思った。
 ずっとそれまで、どうして兄は自分に冷たいのかと。
 その理由は、「弟」ではなかったから。「家族」ではなかったから。
 梓には、物心付いた時から、兄と一緒に居た記憶が無い。
 いつも1人か、母親としか一緒じゃなくて。
 友達も居たけど、啓と、と言う事はあまり無かった。
 それに、同じ家に居ても、殆ど喋らない。
 小学生の頃は、それがとても不思議で、気になっていて。
 でも、「どうして?」なんて訊けなかった。
 そんな事も出来ないくらい、啓とは距離が有って。
 啓は母親とは普通に話す。でも、梓には脇目もくれない時が多い。
 それを思い出して、ぎゅ、と服を掴む梓。
 でも足は止まらず、すぐに啓の部屋に着いてしまった。
 堅く閉ざされているような、そんなドアを目の前に、息を呑む。
 それから、勇気を出した。
 コンコン、と梓は控えめにノックする。
 中から、はい、という聞き慣れた声。
 う、と思いながらも、ぎこちなくドアを開けた。
 黙ったまま中を覗く梓と、こちらを見てきた啓と目が合った。
 わ、と身体をびくつかせる梓。
 啓は梓の姿を確認すると、ふう、と一つ息を零す。
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