幻影曲

□時間が創り出したもの
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 その日は帰る頃には大雨が降っていた。運が悪いことに、俺は傘もカッパも持っていなかった。あの朝の感じからして、雨なんて降りそうもなかったのだから。
「悪い、亮。今日チャリは無理だ。バスで帰るよ」
 亮はおー、とだけ言って早々と自転車で帰ってしまった。俺もバス停まで走って行った。だが、またもや運が悪いことにバスは出てしまったばかりだった。しかもこの近くは雨宿りするところもない。だいぶ濡れてしまった。
 しばらく空のご機嫌を伺って、もう少し弱くなることを願った。
 寒い。とにかく早く帰りたい。
 そんなことを考えてると、水たまりのピシャンとする音が近くで聞こえた。誰かが横に並んだようだった。
 俺は俯いていたし、それどころではなかったのだが、何か俺に向かって手を差し伸べている気配がした。
 ゆっくりそこに視線を移すと、
「どうぞ」
 彼女は小さく折り畳んである傘を俺に手渡した。
 俺は驚いた。隣で傘をさして立っていたのは、桃城飛鳥だったのだ。
 躊躇していると、ほらと言って、無理矢理折り畳み傘を開かせた。
「さっき靴箱で傘も持たずに走ってくの、みえたから……」
 そう言ってそっぽを向いていた。
「……どうも」
 俺はそれしか言うことはできなかった。約十年ぶりに話せたという安心感もあったが、実際話しをする話題もない。余計気まずいような……。
 俺はなんでもいいからとりあえず話しかけてみることにした。
「朝あんなに晴れてたから……まさかこんな大雨になるとは思ってなかったんだよ……」
 俺は目の前の道路と行き交う車をぼんやり見ながら呟いた。
 彼女からの返事はなかなか返ってこなかった。
 ……この間がなんとも言えず……きつい……。
 しばらくして、彼女も口を開いた。
「そうだね。確かに雲一つなかったし。でも、天気予報見た?」
「あ……、見てない。でもさ、天気予報って当たらないじゃん。だから見てもしょんないかな……とか思って」
 俺は左にいる彼女を見た。すると、彼女は小さく肩を震わせていた。
「ど……どうした?」
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