幻影曲

□時間が創り出したもの
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 それからというもの、俺は過去の自分と語り合った。なかなか自分なりの結論がでない。
 だって、俺は亮と親友でこれからもいられる自信がある。でも、桃城飛鳥はどうだ? あんなに昔は仲よかったんだぞ。別に初恋だとか、恋愛感情があるというわけでもない。ただ、ここまで来て未だに口を聞かないままという状態はどうなのかということなのだ。
 ……だからと言って、話題があるわけでもない。『今更?』とか思われるだけでもきつい。
 ああ、なんだよ。幼なじみってそんなもんか? あの亮だって俺は親友になれたんだぞ。
 だんだん俺は何故かわけのわからない怒りが込み上げてきた。世間様はこれを『逆ギレ』というだろう。
 そんなことを考えながら歩いていたせいだろうか。俺は人とぶつかってしまった。
「悪い」
 そう言って相手が持ってた、床に落ちた本を拾い上げて渡し、顔を見た。
「ありがとう」
 その声は静かに俯いたままそう告げ、すぐに去ってしまった。
絶好のチャンスを俺は逃してしまった。そのぶつかった相手というのが、桃城飛鳥だったのだ。
「何の本?」とか気軽に聞けば会話が成立したというのに……。
 俺は彼女の背中を目で追いつつ、また自己嫌悪に陥った。
「いいのか? お前、このままで」
 突然の声で俺は驚いて小さな叫び声をあげそうになったが、体がビクンとなるだけですんだ。後ろを振り向くと、また亮がいた。
「ビックリさせんなよ」
 俺は安堵の溜め息をつくと、わりぃわりぃ、と言って奴はニヤついていた。
「で、いいのか?」
「何がだよ」
 イラついて俺は尋ねた。
「お前、あれから一切関わらないで今まできてるんだろう? もう卒業だぜ? 最後くらい声かけたらどうなんだよ」
 俺は顔をしかめて、亮を睨んだ。すると亮は、顔を背けて口をとがらせて言った。
「確かに俺が原因だよ。悪かった。でもさ、彼女だってあんなことそんな引きずったりなんかしないよ」
 そんなことは俺だってわかってる。彼女はいつも何があっても微笑んで『なんでもない』って言ってくれることだって……。
 でも、時がたつのは残酷で、引き裂いた傷はいつまでも残ったまま。どんなに頑張っても完璧に跡が消えることはない。
「俺はさ、あの時きっと慎治に憧れてたんだと思う」
 突然の亮の一言に俺は耳を疑った。
 亮は、今更こんなこと言うの恥ずかしいけどと、鼻の下をこすりながら続けた。
「お前、誰にでもすぐ仲良くなってさ、男女問わず平等に接してたもんな」
 俺はあの遠い日のことを考えた。
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