幻影曲

□時間が創り出したもの
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「もうそろそろ、俺らも卒業だな……」
 亮は空を見上げながら呟いた。
 校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下は何も遮るものがない。空は大きく広がってみえた。そして十一月の風が冷たく俺らに吹き付ける。
「そうだな」
 それだけ返事をすると、少しばかりの沈黙が続いた。
 この間、俺らはしみじみとそれぞれの過去を振り返っていた……と思う。だが、すぐに亮はその沈黙を破った。
「色々あったな……。お前と俺は小学校から一緒だったからな。まさかここまで長い付き合いになるなんて思ってもみなかった」
 そう言って亮は苦笑した。
「俺もだぜ。だってお前ずっと俺のこと嫌ってただろ?」
 そう言って俺は意味ありげに微笑した。
「だって……あれは……その……」
 亮はしどろもどろに弁解しようとしてるのがわかったが、全く説明になっていない。
 俺は笑って亮の肩をたたいた。
「昔のことだ。俺らは卒業したってダチだろ?」
 亮は照れくさそうに、左頬を人差し指で掻きながらよそ見した。

 授業が始まると、亮の『卒業』という言葉が頭の中でこだまし始めた。
 そうなんだよな……。あいつと俺、仲悪かったんだよな。帰りにいきなり殴られて、ケンカになって。毎日のように殴り合ってたっけ……。結局先生にバレて怒られたな……。でも、何故かその後は仲良くなってた。
 ……変なの。だってあんなに『気に入らねえ』とか言われてたのに今では親友だろう? だけど、今思えば、それと引き換えにもう一つ大事なものを失った気がする。
 今まで思い出さなかったことが『卒業』という事実を目前にして一気に思い出す引き金となった。
 カノジョをオレがツキハナシタ……
 でも、昔のことだ。彼女だって忘れてるはずだ。それに彼女だって俺から離れたことによって女子の友達が増えた……と信じたい。
 そんなことをやたらと考え自問自答していくうちに、あっという間に時間がたっていた。たくさんのペンの動く音が虚しく響く。
 ……。しまった。何もノートとってなかった。
 俺は慌てて黒板の文字を移そうとした。その瞬間、それを見計らっていたかのように、教壇の上の教師は一気に黒板の文字を消してしまった。
 だが、俺の心に残るものはそんなに容易く消えるものではなかった。
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