幻影曲
□時間が創り出したもの
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「おい、何ボーっとしてるんだよ」
窓の外を眺める俺の肩を叩いて話しかけたのは亮だった。
「いや、別に……」
そう、とつまらなそうに亮は返事をすると、昨日のテレビの話をし始めた。
俺らはバカなことを言い合って笑いあった。
これが、今の俺の日常だ。
そして、不意に俺は思い出す。幼かった日の頃を……
「桃城さん、ちょっと古文のプリント見せてくれない?」
元気な声が俺の耳に飛び込んできた。
視線を移すと廊下側の席で静かに読書をしている女子が視界に映った。
すると彼女は静かに本を机の上に置くと鞄の中からプリントを取り出した。
「はいどうぞ」
微笑みながらクラスメートに手渡すと何事もなかったようにまた本を読み始めた。
何でもない光景。そう。確かにそうなのだ。だけど俺は不意にもやもやした気持ちになったのだ。
というのも、桃城飛鳥は俺の幼なじみ。幼稚園から一緒であの頃はよく遊んだものだった。彼女は活発だったし、俺も人見知りなんかしなかった。
小学生になって俺と彼女は――
「おーい、慎治。次、移動教室だってよ」
亮の一言で日常へと引き戻された。
わかった、と返事だけをして俺は授業の支度をして、亮と歩き始めた。