BANDIT

□steal.1
2ページ/20ページ




「オーナー、注文入りましたよー!!」

「おぅ。じゃあ、今日もありがとな、ソラ」

「ううん、こちらこそ御馳走様」



ソラは椅子から立ち上がり、帽子を被る。
長い黒髪がさらりと揺れた。


店主に挨拶をしてソラは店の出入り口へと向かう。

そして扉の取っ手に手をかけた時…


「へ!?」


扉が急に奥へと動いていく。
まぁつまり、外から人がやってきたわけだが。

ソラはそのまま引っ張られるようにバランスを崩し、前へと傾く。
このままでは倒れてしまう。


(…えぇ…!?)


来るであろう衝撃に思わず目を瞑る。


が、いつまでたってもそれは来なかった。


「…?」


不思議に思い、目を開ければ誰かに支えられている。

外から扉を開けた人物にそのまま倒れ込んでしまったらしい。


「わ、え…ご、ごめんなさい!!」


慌ててソラは体勢を立て直し、相手へと謝罪する。


相手はソラより頭一つ分背の高い顔立ちの整った、黒い髪を持つ青年だった。
寡黙なのか、ソラの謝罪を目礼で返したその雰囲気は落ち着いたものだ。


そして、何よりも…


(…綺麗な瞳…)


青年の瞳は澄んだ翠色をしていた。


「…?」


怪訝そうな顔をする青年にソラは自分が見つめていたことに気づいた。
しまった、と焦る。


「!!…す、すみません!!ありがとうございました!!」


謝罪と感謝の言葉だけはしっかり述べ、ソラは相手の返答も待たずに逃げるようその場を立ち去った。


「…は、恥ずかしい…」


店から少し離れた路地でソラは息を整えた。
きっとおかしな人に見えただろうなと自分の行動を反省する。


それにしても、とソラは今しがた自分が走ってきた街の方を振り返る。


「…初めて見たな、あの人。外から来た人かなぁ…」



ふと、先ほどの店主の話を思い出した。


(…翠の、瞳…)


先ほどの青年は澄んだ翠の瞳だった。


「…いや、まさかね」



ソラは頭によぎった考えを軽く苦笑して消し去った。



ドロボウがあんなに人がいるところに堂々と来るはずがない。




そう結論を出した。





.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ