BANDIT
□steal.6
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その潮の香りと景色はソラには初めての経験だった。
「すごい!!大きな水たまり!」
細長い手漕ぎ船に揺られながら目の前に広がる青にソラは歓喜の声をあげた。
「水たまりときたか…」
「え、違う?」
「全く」
ソラの向かい側に座るレンは呆れたような目をしながら答えた。
その反応を特に気にせずソラは続ける。
「水底に足つきそうにないし、落ちたら大変そう…海ってこんな感じなんだね!すごい!」
「それはよかったな」
「お客さん、海を見るのは初めてですか?」
楽しそうな様子のソラに、セピア色の髪をした若き男性の船頭は舳先に立ち櫂を動かしながら穏やかにそう尋ねる。
「はい!私、内陸の方にいたから見たことなくて」
「それならば、きっとウォートアリアは楽しんでいただけると思いますよ」
それは二人の目的地の名前だった。
全体を見ると三日月のような形になる無数の小さな島々の上に築かれた、水の都とも呼ばれる街だ。
島を縦断するように流れる大運河、その周りには狭い運河が縦横に流れていて、街での移動手段も船などの水上を行き来出来るものが多いらしいとソラはレンから聞いていた。
「楽しみです!」
笑顔で答えてソラは再び海へと顔を向ける。
もうしばらくは見飽きそうになかった。
その時、
ーー……よ……そ…ーー
「…え?」
波の音ではない別の何かが聴こえた気がしてソラは思わず声を上げる。
「どした?」
「今何か聴こえた?」
「え?…いや特には」
海の方を向くレンを見てソラもそれに倣う。
今は櫂を漕ぐ音と波の音しか聴こえなかった。
「気のせいだったかな」
「ま、海の近くには色んな生物がいるし、鳴き声でも聴こえたんじゃないか」
「それもそっか」
でも、とソラは思考を巡らす。
(鳴き声と言うよりは人の言葉みたいだった気が…)
そういう風に感じただけかと、結論づけて納得することにした。
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