あの日の夏

□白い砂に足跡ふたつ
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ケンは家の中を見て回って、いつもと違う何かに気づきます。


「…ユースケとテル、いないよねー?」

「二人ともどっか行ったみたいだ」

「置いてかれた…!!…ダイ!俺たちも行こっ」

「え、何処へ?」

「内緒っ!!」



ニッと楽しそうに笑ってケンは言いました。




穏やかな波の音が聞こえます。

ケンに連れられて着いたのは誰もいない、砂浜の白と海の青が鮮やかな入江でした。



「そういや…なんだかんだで来てなかったな、海」



目の前の白と青の光景にダイは呟きます。



「久々だろー?」

「そういや、前来たときはここにも来たっけ?」

「そーそー。スイカ割りとかしたじゃん」

「…ああ、ケンが割ろうとしてスイカどころか海に行っちゃったやつか」

「なんでそんなに覚えてるの!?というか、それ皆が嘘言ったからだろー!?」

「そうだったっけ?」


文句を言うケンにダイは笑って流し、砂浜に目をやります。



「この間も皆で海行ったけど、ここも十分綺麗だな」

「お、ダイ見て見て。綺麗な貝!」


急にケンがしゃがみこみます。

立ち上がったその手にあったのは桜色の小さな貝殻でした。


「…ああ、サクラガイだ」

「本当にキレー!!お土産にして帰ろ」

「………」


ケンっていくつだったっけ、とダイは思いましたが口には出しませんでした。


「なー、なんでここは砂が白いんだろうなー」



貝探しを続けたままケンが尋ねました。


「ん?あー…沖縄とかの砂は珊瑚の死骸って聞いたことあったけど…ここはどうなんだろうな」

「まさか…ここの砂浜は日焼け止め塗ってあるとかっ?」

「…それって普通の砂浜は日焼けしてるわけ?」

「そうなるよなー」


ツッコミ役がいない会話はそのまま続いていきます。



「でも、どうして急に海?」

「来たかったから!!」

「……そう」


理由になってない理由にダイは軽く苦笑しながらそう返しました。


「あとさ、」

「あと?」

「皆であっちの方行ったじゃん」



ケンが指差したのは入江の端にある岩場でした。



「見たいものあるんだっ!!行こっ、ダイ」

「あ、ケン!!待てって」


駆け出したケンをダイは慌てて追い掛けていきました。






砂浜と違って動きにくい岩場を慎重に行きながら、ダイはケンについていきました。

そして、ある広い場所へと出ます。



「ケン?なんだここ」

「えーっと、確かここだったんだよなー…」

「は?」


一人、さっさと行動をするケンにダイはついていけません。


しばらくして、ケンが大声をあげました。


「あった!!あったよ、ダイ!!」

「だから何が…―」


ダイの言葉が途切れました。

それは岩の壁に彫られた小さな文字でした。


「…あ、…」


忘れかけていた記憶が戻って来た気がしました。





『なーなー!!思い出に岩に何か彫ろうぜ!』

『…何言ってんの?』

『ケン、ナイフとか彫れるもの持ってないだろ?』

『ここの岩彫りやすいんだってー!!ほらっ、貝でもいけるよ!!』

『まぁ、目立たないところに彫るにしても…何彫る気なの?』

『うーん…あ、じゃあさ…―』




目の前の文字を見ながらダイはあの時の会話を思い出していました。



「思い出した…やったね、こんなこと」

「俺、これが残ってるか見に来たかったんだっ」


嬉しそうに笑うケンの言葉を聞きながらダイはじっくりと岩の壁の眺めました。




『また来る!!
けんと、ゆうすけ、てるかず、だい』




ケンらしさに思わず笑みがこぼれます。



「…残ってて、よかったな」

「うん!!」

「……覚えててくれて、サンキュ」

「え?何か言った?」

「いや…また来ような、ここ」



今は二人分の足跡が今度は四人分になるように。




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