あの日の夏

□心霊スポット巡り
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それは0時も過ぎた真夜中のことでした。



「……ん……?」



寝ていたユースケは妙な違和感を感じて目を覚ました。


そして、



「うーらーめーしーやー」

「……………はぁ?」


たっぷりの間が空いた後、ユースケは言葉を発した。



それから10分後。



「もぅ!!つまんねーの。ユースケ、ちっとも驚かなかったしさー」


満月が照らす夜道を歩きながらケンは文句を言っていました。


「リアクション薄かったな、ユースケ」

「面白い反応期待したのに」


その横でテルとダイが笑いながらそう言います。


「驚いたけど?…ケンがこんな夜中に起きてることに」

「だって寝てねぇもん、俺!!」

「だから育たねぇんだな…で?」


自信満々に言うケンをあっさり切り捨ててユースケは尋ねます。


「どうしたの?」

「……何処行ってるわけ?」


ユースケは先ほど起こされてから、何の説明もないまま外に連れ出されていました。


「しんれいスポット巡りだよ!!」

「………帰っていいか?」


心底嫌そうな顔をしてユースケは言いました。


「何だよユースケー怖いのかー」

「アホかよ…そんなもんするくらいなら寝るっての」

「まぁまぁ。夜の道歩くのも楽しそうだろ、ユースケ」

「…じゃあ、聞く。心霊の意味分かってんのか、ケン」

「……森の霊?」


その言葉にユースケだけでなくテルやダイまでも呆れたような、諦めたような顔をしました。


「……ちょっと惜しいなって思ったら負けだよね」

「いや、テル。惜しくもないから」

「…なんだよ、森の霊って…」



3人はため息を吐きながらそれぞれ言いました。



「つーか…もう帰ろうぜ…眠いんだけど」



小さく欠伸しながらユースケは言いました。



「えー!!探検したいっ!!」

「…目的変わってねぇか?」

「ま、でも、悪くないんじゃないか?ここら辺来たことないし」

「そうだよね。楽しそうだし―…あ、」


前を向いていたテルが声をあげた。



「え?どうしたのテル」

「あれ。見てよ」


目の前に広がるのは深く水を湛えた湖。そして、周りには囲うように咲いている黄色の花がありました。

湖の水は月の光によってキラキラと光っていました。



「こんなとこに湖なんてあったんだ」

「…あの花は何?」

「うーん…多分だけど、オオマツヨイグサ、かな?」

「何それ!?」

「昼間はしぼんで夜に咲く花だよ」



まるで月の色をしたその花は懍と咲き誇っていました。



「…そんな花があんのか」

「というか…よく知ってんな、テル」

「前読んだ本に載っててさ。調べたことがあったんだ。でも、ここの湖はすごいね」

「俺、そういえば湖はあるってのは聞いたことあるよ!!初めて見たけど」



4人はしばらくただその光景を眺めていました。



「なんかさー、ここいそうじゃねぇ?森の霊!!」

「……まだ言うか、お前は」

「アハハ。ま、今回はケンに賛成するよ、俺」

「森霊スポット?」

「…なんだそれ」



静寂の中で4人の小さな笑い声だけが聞こえました。



「…でも、まぁ…こんなんが見れるなら…悪くないかもな」

「お?行く?他のスポット行っちゃう?」

「は?やだよ。寝みぃし」



ケンの楽しそうな声をユースケは不機嫌そうに一刀両断しました。



「ユースケ…」

「矛盾感じるよ」



テルとダイはため息を吐きます。



「じゃあさ!!また来よう!!な?」

「ああ」

「そうだね」

「……また、な」



ケンの笑顔に3人は微笑み返しました。




月の下のこの光景を忘れないでおこう。
交わした約束とともに。




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