あの日の夏

□昼下がり、雲の静寂
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ゆっくりと雲が流れていきます。



「あやめっ!!ほら逃げないと捕まるぞーっ!!」

「きゃーっ。けんおにいちゃんにつかまるーっ!!」




庭でケンとあやめが二人で鬼ごっこをしていました。



その様子を縁側からユースケ、テル、ダイ、百合が見ていました。




「…元気だよねぇ、ケンもあやめちゃんも」

「ホント。暑さでバテなきゃいいけどな」

「ああやってみてると兄妹みたいね、あの二人」

「兄妹っていうか……同レベルじゃねぇの?あれは…」

「「言えてる」」



ユースケの言葉にテルとダイは同意しました。




「ふーっ、休憩っ!!」

「きゅーけいっ!!」


鬼ごっこをしていたケンとあやめが縁側へと戻ってきました。



「お疲れ、ケン」

「まだまだっ!!俺は元気だよ!!」

「…体力だけは無駄にあるだけあるな」

「ユースケに誉められたっ!?」

「貶してはないけど誉めてもないと思うんだけどね」



少し不思議そうにしながらケンは縁側に腰掛けました。

そのまま、空を見上げます。




「あ」




しばらくして空を眺めてたケンが声をあげました。



「どうしたの?」

「あれ、なんか犬に見えない?」




ケンの言葉にその場の全員が空を見上げます。




「犬?……そう?」

「見えるじゃんっ!!ほら、あれが耳で、あれが鼻」

「え?…ああ、なんとなくそう見えるかもしんない」

「じゃあ、こっちはくるまーっ!!」



今度はあやめが指差します。



「あ、あれは確かに車に見える」

「…ケンの犬よりか何倍もすげぇな」

「なんだよぉ!!俺の犬だってすごいじゃんっ!!」

「はいはい」



そうして、その場は少しだけ静かになりました。
皆黙ったまま空を見上げています。



「そういえば、百合ちゃんとあやめちゃんは明日帰るんだっけ?」



ふと、テルがそう聞きました。



「うん」

「…案外短かったな…もうちょいいるかと思った」

「しょうがないよ。私も部活とかあるし、そう長くはいれないよ」



そう言って、百合は苦笑しました。



「でもさっ!!また会えるじゃん」

「いや、そりゃケンはいとこだから会えるだろうけど、俺らは流石に会えないと思うよ?」

「会えるよ!!というか、会う!!」



バッとケンは立ち上がり、庭に出ました。



「会ってさ、またこうやってぼーっとしようよ!!」



ニッと笑いながらそう言いました。



「あうっ!!あやめまたあうー!!」




満面の笑みであやめは言いました。




他の4人はお互い顔を見合わせました。




「全く…ケンも無茶言うよな」

「……簡単に言い過ぎ」

「難しいよ、やっぱり」

「でも、会えたらいいな」



そう言いながら皆微かに笑っていました。



その時、奥から声が聞こえてきました。



「あ、ケンのおばあさんが呼んでるよ」



皆、奥へと目を向けました。



「はーいっ!!」

「あやめ、走らないの」

「とりあえず、行こっか」

「ん……ケン、置いてくぞ」

「あー待ってっ!!」



バタバタと縁側に上がる時、再び空が目に入りました。




「あ…消えてる」

「え?……あ、雲のことか」

「犬も車も無くなっちゃってるね」

「…もともとあれは犬じゃなかったろ」

「犬だったってばー!!」




そう言い合いながら奥へと入っていきました。





誰も居なくなった縁側にただ穏やかに雲が流れていました。





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