短編小説

□感情屋
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「あー暇だなぁ…」


開店して数時間。
お客さんは一人も来ない。
日も大分傾いてきたし。



「やっぱりそううまくはいかないよねー」




まぁ、気楽にやろうかな。




と、思った時だった。



カランカランッ



新しく開店する時に店の扉につけた小さなベルが鳴った。


「…あっ…」




待ちに待ったお客さんです。



入ってきたお客さんは中学生くらいの女の子。
一切表情を変えずにその女の子にいた。

笑ったらきっと可愛いだろうに。



「あ…いらっしゃいませ」

僕は慌てて挨拶をした。

「えっと、どういったご―…」

「この店、感情を操れるって訊いたけど本当?」



僕の話を完全に無視して女の子は言った。


ちょっとぐらい聞いてくれても…


内心そう思いながら僕は笑顔で応えた。

「はい、そうですよ。なにかご希望がありますか?」

「消して欲しいの」

「……何を?」







「全ての感情」








冷たい目でそう言った。





「………え?」




驚きのあまり、僕は言葉が出なかった。


「だから言ってるでしょ。全ての感情を消して」

「いや、そうじゃなくて!!なんで!?」

「要らないからよ」


よく分からないよ。



「なんでいらないの…でしょうか?」

「面倒くさいわね。もう疲れたのよ!毎日毎日相手に合わせるのが!!」

「え?」

「いちいち、面白くもない話に笑ったりして…だったら最初から感情がないほうがマシよ!!」


思いをぶつけるかのように女の子は言った。



でも…



「……すみませんがそれは出来ません」

「…っ…!!どうして!!」

「だってそれは君の心の変化で変わるものだから」


自分が変わらなきゃ意味がないよ。


「な、に、この店…客の要望を無視するっていうの!?」

予想外の出来事に驚きながら女の子は言った。

「やる必要がないものをやるわけにはいかないから」

「私がそう望んでるの!!」

「じゃあどうして消す必要があるの?」

「……っ……」


僕の言葉に女の子は言葉に詰まった。


「………さ、さっき言ったでしょ!!最初から感情なんてないほうがマシだって…」

「…でも、感情を消しても何も変わらないと思うんだ」



女の子は驚いた顔をして俯いた。



「君は友達の話を聞いていて全部の話がつまらないと思った?」

「……………」

「心から笑えたりした話もなかった?」



俯いたまま静かに首を振った。



「君は心を開いてる?皆に」

「………………分からない」



泣き出しそうな声だった。



「…だってっ…怖いのっ……私が本当のことを言ったら、皆……皆離れちゃうんじゃないかって…」

「そんなことない!!」



思わず大声を出した僕を女の子は驚きで顔をあげた。



「…本当に君のことを大切に思ってたら離れていかないよ」

「ホントに?」

「ホントだよ。ありのままを話してごらんよ。もちろん、相手を傷つけるだけじゃダメだけどね」

「…もし、相手を傷つけてしまったら…?」

「その時は謝る。君が本当に悪いと思ってたら、その気持ちは相手に伝わるから」



そう言うと女の子はぽかんと僕を見て、やがて笑った。



「…そうね。うん、そうしてみる」



やっと笑ってる顔を見た気がした。



もう…大丈夫だよね。



「コレ…お礼に」



そういって差し出されたのは500円玉。



「ダ、ダメだよっ!!僕は何もしてないから」

「私が貰ってほしいの」




うーん…困ったなぁ…

あ、



「ねぇ、5円玉はある?」

「あ、あるけど…」


そうして取り出された5円玉を貰って、500円玉を女の子の手に握らせた。




「僕はコレで十分だよ」



それでもまだ納得しないのかしばらく複雑な顔をしていたが、やがて諦めたかの様に笑って扉の方へ向かった。



「ありがとう」


扉を開ける前に女の子は言った。


「本当に何もしてないけどなぁ…」




そう言うと女の子は首を横に降った。




「話を聞いてくれて…感情を取り戻してくれて…ありがとう」




僕はちょっとだけ驚いた顔をして、そして笑った。




「…どういたしまして」





カランと鳴った鈴が優しく聴こえた。




じいちゃんの言ったことが少しだけ分かった気がした。











感情を操れる『感情屋』


もしどうしようもなくなったら来てみて。

頼りないかもしれないけど、力になるよ。


じいちゃんの様になるのが僕の目標です。










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