短編小説

□玩具屋
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それは寒い…雪でも降りそうな日のことです。

今日は年に一度の「玩具屋」の開店日です。






12月も終わりに近い…





24日のことです。





ガチャッ…





ドアを開ける音がしました。






お客様がやって来たようです。





「いらっしゃいませ」





お客様――真っ白な髭があり、優しそうな顔をなされ方――は いつものように笑顔で店に入ってこられました。





「一年ぶりだね。元気にしてたかい?」

「はい。おかげさまでのんびりと過ごさせていただいてます」





私がそう言うと、お客様は更に目を細めて笑いました。





「そいつはよかった」

「玩具もたくさん用意してますよ」

「おお。ありがとう。いつもすまないねぇ。君のところの玩具はいつも綺麗にラッピングされてるからねぇ、すごく楽なんだよ」





ニコニコと笑うお客様に私も笑顔を返しました。

しかし、その直後ふとお客様は悲しそうな顔をなされました。



どうかなさいましたか?と尋ねるとこう返ってきました。





「少しずつ…数が減ってきてるんだよ」



そう静かに話されました。




「玩具の数が…ですか?」




自分が用意したものでは足りなかったのだろうか…
そう思っているとお客様はゆっくりと手を振った。




「いや。玩具の数ではないんだよ。





人の数さ」







そう言ってお客様は自嘲ぎみに笑われました。








「……減って…きているのですか?」

「ああ……君の店は木や布を使った手作りのものだろう?」

「はい」






それが私のポリシーでもあります。






「最近はゲームやらそっちの方が望まれててね」

「……そうなんですか……」

「君にも悪いことをしたねぇ。年に一度しか開かない店なのに、暮らしが大変になるだろう?」






少し悲しげに笑いながらお客様は私に言いました。






「いえ。私のことはお気になさらずに」

「………………聞いてもいいかい?」

「…?………なんでしょうか…?」

「君はなんでこの店を続けてるんだい?」







突然の質問に私は驚きました。








「…………どうされましたか?突然………」

「いや………君との縁も大分長いからね…………少し気になったんだよ」

「………………簡単なことですよ」






お客様に私はニコリと笑いました。






「私はただ皆様の笑顔が見たいからです」






「……笑顔か……」

「はい」




きっと、私の作った玩具でたくさんの方々が笑顔になっている。






そう信じられる。





「なるほど……君らしい答えだ」

「ありがとうございます」

「では、私も笑顔を届けにいくとするよ」





そう言ってお客様は優しく笑われました。





「望んでくれるのが分かるからやっていけるんだね。私も君も」

「…はい」

「今日はどうもありがとう」

「いえ。こちらこそ」





すると、お客様はふと何かに気づき窓の方を見られました。




「おや…雪が降ってるよ」





その言葉に私も窓の方を見ました。





重くどんよりとした空から真っ白な雪がヒラヒラと降っていました。





「……仕事が大変になりますね」

「なに、いつものことさ」




フフッと小さく笑いながらお客様は言いました。




「じゃあ、また来年来るよ」

「お待ちしております」




そして、お客様はゆっくりと店を出ていきました。




「………来年が楽しみですね」



年に一度しか開かない『玩具屋』


でも、貴方のもとにもこの店の玩具があるかもしれません。





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