短編小説

□接着屋
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それは大分陽も傾いてきた午後。



「……つまんね……」




相変わらず店に客は来ない。


相変わらず俺は暇だ。



そんな時…





ギッ……ギギッ……ギッ……





古びた店のドアが音をたてた。





客が来た。

なんか入るか迷ってるみたいだ。



俺は段々イライラしてきた。



「…入るなら早く入れよ」

「!?」




何故か驚かれた。
店なんだから誰かいるに決まってんだろ。




そして、ゆっくりとこちらに近づいてくる音が聞こえた。




客は若い――高校生ぐらいのちょっと不真面目そうな――男。


そしてソイツは俺の前に来た。



「……なんでもくっつけるって聞いたけど本当か?」

「…ああ。何をくっつけたいんだよ?」



ソイツは戸惑ったような感じだった。
そして、恐る恐る言った。


「……………人………」



一瞬の間。



「…誰と誰を?」

「………俺とコイツ」




そう言ってソイツは同い年ぐらいの女が映った写真を出した。
うわ、写真持ち歩いてんだ…ちょっと引くわー…



「………つまり、アンタがこの子と付き合えるようにして欲しいってことか?」

「…………そうだよ」




あーあ、ガキの考えることだよなぁ。




「で……出来るのかよ……」




俺が面倒くさいなと思ってるとソイツは慣れたのか普通に話しかけてきた。




「出来るぜ」




俺はそう言って笑ってやった。





「………本当に………!!」




ソイツは驚きながらも嬉しそうに笑った。




人をくっつけることだって出来る。



だけど、一つ問題があった。



面倒くさいけど、コレを言っとかないと苦情でもこられたらややこしくなるからな…





「人をくっつけることは出来る…だけどな……」

「……な、なんだよ…なんかあるのか…?」



俺は話すのに少し間を置いた。




「……いくらくっつけてもな、そこに『想い』はないぜ」

「…………え?………」





訳が分からないって顔された。

あーもー、頭悪いなコイツ!!




「だからな、恋人になれても相手は好きだから一緒にいるわけじゃないってこと」



ただ俺がくっつけただけ…
そこに相手の気持ちはない…



「………なんだよそれ………」

「俺はただくっつけるだけだからな。別に相手がお前を好きになるようにするわけじゃない」




唖然としているソイツに向かって冷たく言い放つ。



「これが人をくっつけるってことだよ」




「………そんなの……意味ないじゃんか……」




そんな様子を見て俺はハァとため息を吐いた。



「大体な、お前自分の力でなにもしてねぇだろ?」

「なっ……」

「告白するなりなんなりしてからどうにかしろってんだ」




そう言うとソイツは急に考え出した。




「……………分かった………」



小さな声で何か言った。



「は?」

「だから!!分かったって!!とりあえず、告白なりなんなりしてみるよ」

「あ?…ああ」



なんで俺に言う。



「俺帰る」

「はぁ」



なんか何しにきたか分からねぇな、コイツ。



「ん」

「……は?」



いきなり差し出されたのは100円玉。



「…なんだよ、コレ」

「お礼だよ」

「なんの」

「アドバイスの」




…した覚えねぇ…




「じゃ、ありがとうございました!!」




そう言って、ソイツは店のドアの方に向かった。



出る直前、




「俺…頑張るから」



ニッと笑ってソイツは言った。




「……ま、せいぜい頑張りな」




そして、店の中は静かになった。


「あー…しまった…自分から客逃した…」



貰った100円玉を見ながら呟いた。



だけど、不思議と嫌な気分ではなかった。




で、結局アンタも来てみるか?


なんでもくっつけることが出来る、



『接着屋』に…






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