短編小説
□色彩屋
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雨が降っています｡
ここ2､3日ずっと雨です｡
「そろそろやむかな…」
そう呟いた時です｡
チリン､チリン…
店のドアに付けた小さな鈴の軽やかな音が聴こえました｡
お客様です｡
「いらっしゃいませ」
店の中を窺うように恐る恐るドアを開けたお客様――青い傘を持ち､緑色の帽子を被った小学生ぐらいの男の子――は私の声に反応してビクッと震えました｡
どうしたのかなと見ていると男の子は決心したように店に入ってきました｡
「あ､あの!!」
「はい､なんですか?」
「この店ってなんでも好きな色に変えてくれるんですよね?」
「はい､何の色を変えますか?」
私がそう言うと男の子は俯いてしまった｡
不思議に思いながら見ていると､急にバッと顔をあげて真剣な顔で言いました｡
「空を……空をいろんな色に変えて下さい!!」
「……空……ですか?」
「はい｡ずっと雨が降っていて……空が灰色だから……
駄目……ですか……?」
不安げに私を見つめる男の子に私は微笑みました｡
「いいえ｡出来ますよ」
そう言うと男の子の顔が明るくなりました｡
「だけど…あまり長い時間変えることは出来ません｡それでもいいですか?」
「はい!!
………あ､あのお代は……?」
「そうですねぇ…結果を見てからでいいですよ」
雨はやみかけていました｡
「では､やりましようか」
お客様のお望みのものに…
数分後―…
「そろそろ外に出てみましょう」
「え……?
もういいの?」
「はい､どうぞ」
男の子はゆっくりとドアを開けました｡
「うわぁ………」
男の子の驚きの声が聴こえました｡
空には赤､橙､黄､黄緑緑､青､紫の色が広がっていました｡
そうです､虹です｡
とても大きな虹が空にありました｡
それに､青空の水色､雲の白もあります｡
「すごい!!本当に空がいろんな色になった!!」
「喜んでもらえてなによりです」
感激して喜んでいる男の子に私はまた微笑みました｡
しばらくして､虹は消えました｡
それでも男の子は満足そうでした｡
「………あ､お金!!」
「はい?」
「いくらですか?」
「……ああ､お客様の出せる代金でいいですよ」
大サービスです｡
「………いいの?」
「はい」
「……じゃあ､コレ……ずっと貯めてたお金……少ないけど…」
差し出されたのは100円玉や50円玉､10円玉の数々です｡
合計で………500円分あります｡
一生懸命集めたのでしょう｡
「……そんな500円ももったいないですよ｡
これだけで充分です｡」
そう言って私は50円玉を一枚取りました｡
「え………?
いいの………?」
「はい」
少し戸惑っていましたが私が笑って言うと笑顔になりました｡
その後､男の子はドアの方へ向かって行きました｡
出る直前､男の子は私の方へ振り返りました｡
そして―…
「ありがとう」
笑顔でそう言って男の子は去って行きました｡
私は一瞬驚いて､その後､笑顔になりました｡
例え､繁盛しなくても…
流行らなくても…
お客様の笑顔があるからこの店を続ける｡
貴方も来ませんか?
望みの色に変えれる
『色彩屋』へ……
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