BANDIT
□steal.7
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「おじさん、その人達誰だ?」
村に入ってすぐに二人の存在に気付き、興味深い様子で声を掛けてくる男がいた。
レンと同じか少し年上に見える背の高い、鳶色の瞳の青年だ。
短く切った瞳と同じ色の髪にタオルを被せて、首にゴーグルを掛けている。
何かしらの作業をしていたのか着ているシャツやつなぎは土や油で少し汚れていた。
それでもその表情には疲れが見えず、溌剌として明るい。
「ああ、ウィア。旅人さんだよ。森の近くで会ってね、村に寄って行ってくれることになったんだよ」
「ほんとか!旅人なんていつぶりだろうな」
そう嬉しそうに話すと、ウィアと呼ばれた青年はレンとソラの方へ顔を向け、明るく歯を見せて笑う。
「俺、ウィア。この村で電気整備とかしてんだ」
「ソラって言います」
「レン」
「……」
愛想なく名乗ったレンを見たウィアはふと黙り、じっとその顔を凝視する。
その行動にレンは不愉快そうに微かに眉を寄せた。
「…何?」
「あー、いや……あ!旅人が来たってことみんなに教えねぇと!じゃ、俺、先行くから!」
頭に被せていたタオルを掴むとウィアはあっという間に村の中心の方へと走り出して行った。
その様子をレンとソラは呆気にとられながら見送る。
「元気な人だなぁ」
「…騒がしいの間違いだろ」
「ははは、すまないね。あの通り慌ただしい子で。私達はゆっくり行こう」
男に言われたように特段急ぐことなく、村の中心にある広場だという場所に向かうと、ウィアから聞いたであろう村の住人達がウィアと共にレンとソラを出迎えるように待っていた。
その誰もが嬉しそうな様子だ。
「旅人さん。ようこそ、クレンゾ村へ」
「是非ゆっくりしていってね」
「よかったら旅の話でも聞かせて欲しいな」
「何か困ったことがあったら遠慮なく言っておくれ。力になるよ」
「……あ、ありがとうございます」
投げかけられる好意的な言葉の数々。
ここまでの旅人に対しての熱烈な歓迎を今まで受けたことがなく、ソラは戸惑いながらもなんとかそれだけ返した。
レンもこの状況に微かに面食らっているようだ。
「それにしても旅人さん達、とてもいい時に来たね」
「何かあるんですか?」
「明日は一年に一度のお祭りなのよ。みんな今準備の真っ最中で」
村人達の発言に改めて広場を見渡せば、建物や道沿いに華やかな装飾や灯りなどが飾られている最中だった。
その雰囲気は楽しげで活気に満ちている。
「わぁ、きれー…」
「よかったら見ていってね。賑やかになれば女神様も喜ぶと思うわ」
「…女神様…ってここ、何か祀ってるのか?」
レンの問いに答えたのはウィアだった。
軽い口調で説明をしてくれる。
「他のとこみたいな大それたもんじゃないよ。ただこの村はその女神様のおかげで始まったから、感謝を込めて祀ってるんだってさ。詳しく知りたければ、俺の兄貴がそういう本たくさん持ってるから見してもらうといいよ」
「……へぇ……まぁとりあえずは宿があるなら教えてほしい」
「じゃあ、うちがそう」
そう言って人の輪から出て来たのはソラと同年代くらいに見える少女だった。
ふわふわと緩くパーマがかった薄茶色の髪を肩付近まで伸ばし、ツリ目気味の目と右側の目元にあるほくろが活発そうな印象をもたらしていた。
少女はソラと目が合うと、にこりと微笑んだのでソラも笑い返す。
「うちの家、旅人さんが来た時は宿として提供出来るようにしてるんです。寝心地と美味しい食事と安さは保証しますよ」
そうどこか自信ありげな様子で少女は説明する。
「…なら、そこで」
「はい、ご案内しますね。あ、私、リーフェって言います」
「私はソラです」
「レン」
そうして宿へと向かうレンとソラを村人たちは相変わらず好意的な言葉で見送ってくれたのだった。
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