BANDIT
□steal.7
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ぽかんとした表情でソラはレンの服を離して隣に立ち、確認するようにレンを見た。
「森を抜けた先には何もない平野が続いてる…って話だったよね?」
「ああ、街はおろか、村すらない。次の街もまだ数日かかる距離だと」
森に入る前に立ち寄った街で手に入れた情報だ。
しかし目の前にあるのは何もない平野どころか、しっかりと人が住んでいるような雰囲気を感じる家の数々や綺麗に手入れのされた農作物の育った畑があと十数歩でたどり着けそうなほど近くにある。
「…嘘の情報だったのかな?」
「それはまた随分と大掛かりだな」
確かに、とソラは神妙な顔で頷く。
街以外にも道中に出会った無関係の商人からも同じ情報を得ていた。
そもそもレンが相手の嘘を全く見抜けないとはソラには思えなかった。
「…霧が晴れた」
ぽつりと呟かれたレンの言葉にソラもつられるように周りを見る。
「あ…ほんとだ」
あれだけ覆われていた白はすっかりと無くなっていた。
霧で時間の感覚がおかしくなっていたらしい。
もうすでに夕方くらいかと思っていたが見上げた空はまだまだ晴れやかな青だった。
「……」
レンは無言で後ろを見る。
霧の残骸すら残さぬまま今しがた通ってきた森はそこに静かにあった。
(白昼夢でも見せられているみたいだ…)
そんな薄気味悪さに眉を潜めた。
するとその時、あ、とソラが声をあげるので視線を後ろから隣へと移した。
「どした?」
「あそこ、人がいるよ」
ソラの見ている先を追えば、村の少し外れにある畑の方に麦わら帽子を被った農夫風の小太りの男性がしゃがんで何かをしていた。
「村の人…かな?」
「多分な」
話し声が聞こえたのか、男性が顔を上げる。
レンとソラの姿を見つけると笑顔になってこちらへと手を振ってくる。
二人は一度顔を見合わせて男性の方へと近寄ってみることにした。
「やぁ。旅人さんかい?」
「はい、こんにちは。あの…ここ、村ですか?」
「そうだよ。クレンゾ村という。小さいけれど長閑でのんびりとしたところだ」
「クレンゾ村……この村って最近出来たんですか?私たち、森の先は何もない平野だと聞いてたので村があって驚いてて…」
ソラの問いに男性は心外そうに目を丸くした。
「ええ?歴史は結構長い村だと思ってるんだけど…確かに目立ったものは何もない村だけどそんな情報が流れてるなんて酷いなぁ…」
不服そうな男性が嘘をついているようにはソラには見えなかった。
自分が見抜けないだけかとレンを見れば、レンは小さく首を振った。
嘘ではないとレンも判断したらしい。
「…もしかしたら、聞いてた道を間違えたのかもしれない。失礼なことを言って悪かった」
非礼を詫びながらもレンは嘘をつく。
森に行くまでの道は情報通りだった。そして、霧が出ていたとはいえ森の中に分かれ道などなかった。
間違うはずがない。
「いやいや、旅人さんは悪くないよ。君たち、もし急ぎの旅でなければ村の方へと寄って休んでいかないかい?こんなところにある村だから他所から来た旅人さんに会えると皆喜ぶんだよ」
男性の言葉にレンは一瞬だけ何かを考えるように目を伏せたが、すぐに顔を上げて応えた。
「……世話になっていいのなら」
「よかった!早速村の方へと案内するよ!」
意気揚々と歩き出す男性の背を見ながら、ソラはレンへと小声で尋ねる。
「…いいの?」
好意に甘えるように見えて、レンはまだこの状況に懐疑的のように思えた。
尋ねられたレンはああ、と返事をする。
「情報が欲しい…何があっても対処出来るように、な」
そう答えたレンの表情はいつもより険しいようにソラには見えた。
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