BANDIT
□steal.1
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ここは小さな街、ルフール。
一年を通して温暖な気候で、機械的発展の少ないのんびりとのどかな、何かと街で暮らす人々で助け合う田舎街だ。
そんな街にあるレストラン『プティシャ』。
大きくはないが、安くて美味いと人気の店である。
「翠風?」
店の一種の常連であるソラはカウンターの一席に座り、店主の言葉に紅の瞳を不思議そうに瞬かさせた。
「おぅ。すごいよなー」
「…ごめん。一体誰?」
ソラの返答に店主は唖然とした表情になった。
そんな表情をされても、とソラは苦笑いを返す。
店に入って早々ソラに言った言葉が 今日翠風が来るらしい、だ。
理解しろというのが無茶である。
「翠風はな、最近有名なドロボウだよ」
「ドロボウ…!?」
それは見たことがない存在だ。
この街にドロボウが来ることあるんだ、とソラは目を丸くする。
「なんでも、翠の瞳に風のように盗んでいくとこから翠風なんだとか」
「へー…でも、どこに?」
ソラの質問に店主は声を潜める。
「驚くなよ?アヌバの屋敷だ」
「そうなんだ」
「…反応薄いな」
「驚くなって言ったのに…というか、予想は出来てたよ。この街で盗みに入れそうなのそこしかないから。それで、何を盗むの?」
「…さぁ?なんでも予告状には『あなたが手に入れたかけがえのない大切な物を戴きます』ってあったんだと」
店主の言葉にソラはきょとんとした表情になる。
予告状にしては随分と不確かだ。
「…曖昧だね?」
「詳しくは知らねぇがよ…まぁ、素直に盗まれちまえって感じだな」
小さな街に似合わないきらびやかな屋敷に住み、自分より下の者を見下すアヌバは街の人々から好かれていない。
そのせいかドロボウがアヌバの屋敷に盗みに入ると知っても皆大して憤りを感じていなかった。
むしろ清々するという感じだ。
「…ぎゃふんと言わせてくれねぇかな、翠風は」
「ドロボウにそんな期待してもしょうがないでしょ?」
ドロボウの目的はあくまで盗むことだ。
アヌバが街の人に嫌われていようが関係ないだろう。
「ま、それもそうだな!!」
豪快に笑う店主にソラは小さく笑い返した。
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