小説

□エノコログサ
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「でも、抱きついてきた理由がわからないんだけど?」

いい加減にはなしてほしい。

「ん?なんとなくな」

「なんとなく?」

「ねこじゃらし、いらねーみたいだし」

いるわけない。

「こそばすくらいしか使い道ねーよなぁ」

「ッ!?」

ぞわり、と左耳に違和感を感じた。

「お?もしかして耳弱かったか?」

面白そうに、楽しそうにトリコが言う。
じわりと毒が滲んできた。

「トリコっ…エノコログサは…漢字で書くと…どうなるか、知ってるか?」

早くしないと食われる。
…もう少し。

「なんだそりゃ。漢字なんてあるのか?」

あと、ちょっと。


ココはフ、と笑った。



「『狗(犬)尾草』…本当は『いぬころぐさ』って書くんだ」

「?…………!!」

がくりとその場に膝をつくトリコ。
よろよろと顔だけをココに向けた。

「まさか……コ、コ…おま、え…」

そう、毒を盛ってやった。肌に直接塗るだけだから、あまり強くはない。

「大丈夫、トリコなら一時間くらいで治るから」

爽やかにそういったココは、トリコにはもっと爽やかに見えた。

「毒は、ズルイ…だろ!」

ココはトリコからエノコログサを奪い取り、目の前で振ってみせた。

「ボクをネコ扱いしたお返しだ。」

お前もオレの事イヌ扱いしたじゃねーか。
…だめだ、痺れてうまくしゃべれねぇ…

へたり込んだトリコをココが見下ろす。
そして、こう言った。



「おすわり、なんてね」

「……………」


…とんでもないしっぺ返しを食らってしまった。

でもココは楽しそうだし、まぁいいか!



オレをほっといて夕食の支度をしにいったココを見た。

えらく上機嫌。

やっぱココってネコだよなぁ。
…かわいすぎる。
毒が切れるまで、ずっと見ておこうか!


「(…毒まで食らわせたのに、何でさっきより嬉しそうなんだ!?)」

しかもずっと視線感じるし!


…いつか躾けてやらないとな。

ココは手に持っていたエノコログサを強く握り締め、そう誓った。



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