小説

□エノコログサ
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「ココ、ココ、ココっ!」

「うるさい何度も呼ぶな」

あ、怒られた。

それでもこっちを振り返ってくれる。
あぁもうココかわいすぎる!

嬉しくてつい顔が緩んだ。

「(…トリコの電磁波が嬉しそうだな。何があったんだろうか?)」

「ほら、ねこじゃらし」

ずい、とココの顔の前に突き出した。
ココはワケが分からないといった顔をして少し身を引いた。

「…………え?」

エノコログサ。またの名をねこじゃらし。道端などでよく見かける一年草だ。
ブラシのような穂が特徴的だ。
これがあるということはもうすぐ秋なのだ。


…じゃなくて。

「だから、ねこじゃらしだって」

「知ってるよ。それがどうしたんだ?」

まさか食ってみたいとかだったり。
食用には向かないが、一応粟の原種だから食べられないことはない。多分。


…いやいや、そうじゃない。

トリコは相変わらずニコニコしたまま、ねこじゃらしをココの前で左右に揺らし始めた。

「(意味がわからない)」

呆れてため息をついたところ、トリコが何を思ったのかいきなり抱きついてきた。

「な、何して…!」

ココは驚いて力一杯逃げようと抵抗した。
もちろん力で勝てるわけがなく、がっちりと固定されてしまった。
もうすぐ秋だというのに、物凄く暑苦しい。

「トリコ、暑いんだけど…」

いっそこのまま毒でも出してやろうかと思った。

「ココってよ、ネコみたいだよな」

「は?」

暑さでボケたか、それとも自分の耳がおかしいのか。

「だって構いすぎると拗ねるだろ?あと、可愛いし」
「あのなぁ…」

なるほど、だからねこじゃらしなんて持ってきたのか。
だからと言って、ボクをネコ扱いするなんてね…

「トリコはイヌみたいだな」

嫌味たっぷりのつもりで言ってやったのに。

「そうか?」

超笑顔。
…効果はないようだ。

「構ってやれば甘えてくるし、嬉しそうなときは尻尾を振ってるみたいだ。(あと、可愛いし)」

最後の方は言ってやらなかった。…恥ずかしくて言えなかっただけだけど。
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