企画

□千打御礼文

『始まり』



…――いつからだったんだろう?

こんなにも、君が…


†††



その日、レイドが道場の仕事を終えて帰路に就く頃には、もう夕方であった。


少しいつもより遅くなったので家路を急ぐ彼の視線の端に、見覚えのある赤い衣を纏った少女の姿が写った。


「アヤ……」


少し距離のある、夕日に染まるアルク川の河原。

舞い落ちるアルサックの花びらを浴びながら、彼女は佇んでいる。


アルサック――彼女の世界にあるという"サクラ"という花に似ているらしいその花。

故郷を強く連想させるだろうそれを彼女は見上げている。

こちらに気付かない程に、真剣に。


自らの故郷を思っているだろう、そう思った。



帰りたい、と最近彼女は口にしないけれど。

似ている物が意外と多いらしいこのリィンバウムだからこそ、余計に故郷への思いを誘うのかもしれなかった。


「…………」


声をかけるべきだろうか?

だが、心配されるのが苦手なアヤの事だから、今は何も声をかけない方がいいのかもしれない。


そう思って、フラットへと歩き出そうとした、その時。


(…………え?)



彼女の表情が動いた。

泣き顔ではなく……笑顔に。


けれど、それはまるで泣きそうになる一歩手前のような、悲しい笑顔。

その表情に、レイドの足は知らず河原へと向かった。

近くまで来たレイドの姿に気付いたアヤは、いつものような優しい笑顔を浮かべた。


「レイドさん。今、帰りですか?」
「ああ…、君は何を?」
「私は……」


少し間を空けて、ふと笑顔の消えた彼女は呟くような小さな声で言った。


「確かめに来たんです」
「え……?」


けれど、すぐにまた笑顔を浮かべた彼女はゆるゆると首を振った。


「いえ……帰りましょう?」
「あ、ああ…」


先に歩き出した彼女を追いかける。


(確かめに……?)


一体、何を――…?
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