捧げもの
□I cry for the moon
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干し終わった洗濯物を、各々の部屋へと運んでいた。
アヤの部屋にたどり着くと、ノックのために手のひらを握りこんだが、その手はドアにたどり着く前に止まってしまう。
「……っ、う…」
泣いて、いる。
微かにしゃくりあげる声に急かされるように、衣類の入ったかごを抱え直してから、静かに歩きだした。
†††
「今日は早く寝ますね。お休みなさい」
夕食の後、自らの食器を片付けてから、アヤはそう言って頭を下げた。
各々が返事をすると、にこりと笑ってから居間を出て行った。
その背を見送ったガゼルが、こちらへと視線を向けてくる。
「なあ、リプレ。アヤの奴さ、最近どうしたんだ?」
「どう、って?」
「何となくなんだけどよ、落ち込んでないか?」
「そう…ね」
既に席を離れて三人で遊んでいる子ども達に気を使ったのか、声を落としながら会話する。
リプレの脳裏には昼間の事が浮かんだが、そのことを勝手に口に出してしまっても良いのか迷い、取りあえず、黙って話を聞いていたレイドとエドス、キールへ目線を向けてみた。
……ローカスは早々に部屋に行ってしまっていから、既に席には居なかった。
「…確かに、彼女は元気がないように感じていたよ」
レイドがそう言うと、どこか言いにくそうに後の二人も口を開く。
「ふっと見かけると、浮かない顔をしているしな」
「僕も最近は注意して見ていたけれど、外出もあまりしていないし…」
「ただ…ね、そのことを聞いてしまっても良いものなのかと迷っていたんだよ」
情けない。そう言うように苦笑を浮かべるレイドを見て、首を振る。
彼女に踏み込めなかったのは
自分も同じなのだから。
「……やっぱり、おねえちゃん、元気ないよね?」
唐突に聞こえたラミの泣きそうな声に、席についていた皆がぎょっとした。
いつの間にか、子供たちが話を聞いていたらしい。
「病気ならさ、オイラ、アカネねえちゃんに薬頼んで来るよ!」
「私も行く!」
バタバタと玄関へと走り出そうとする子ども達に、リプレは声をかけた。
「まだ病気だって解った訳じゃないから待ちなさい?」
「でもぉ……」
三人とも不満そうに顔を見合わせる。
リプレは席を立ち、子供たちの頭を順番に撫でる。
「明日にでも私がアヤに話をしてみるから、それまで待って。ね?」
優しく笑いかけると、不安そうな顔をしたまま、子供たちは頷いた。
(そうだ…、怖がってばかりじゃ踏み込めないんだもの)
――…けれどその時、皆知らなかったのだ。
「…………」
居間の死角になっている廊下の影で、一人の少女がきつく唇を噛み締めたのを。