捧げもの
□届け想いよ
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『村のみんなへ
みんな、久しぶり。
前回会いに行った時と変わらず、みんな元気でしょうか?
私はこの前話した島で、この前話した人たちと、毎日を楽しく暮らしていますよ』
†††
黒い紙に光の粒をばら撒いたようなきれいな星空だった。
けれど、そんな空を眺めているのは、きっと今、誰もいないだろう。
「あーっ、それ私のエビ!!」
「早いもの勝ちだもんね!」
「そうですよぅ」
「ちょっと…スバル……」
賑やかな声に視線を空から下ろすと、湯気をあげる鍋の向こうで、金髪の少女が楽しそうに笑う少年にくってかかっていた。
中空で笑う妖精の少女がそれを面白そうにはやし立て、亜人の少年が友人達の行動に焦っている。
彼の戦いからおおよそ一年。
今日は久しぶりにカイル一家と自らの教え子が遊びに来ていた。
そして、恒例になった鍋パーティーが行われ、皆、あらかた食べ終わって、思い思いに過ごしている。
皆が揃ったその空気が、懐かしいながらも、どこか新鮮で。
なんだか嬉しくて、つい表情が緩む。
「隙だらけよ…センセ?」
「えっ?」
そうすぐそばから声がして、横から伸びた手に握られたフォークが、皿からナウバの実をかすめ取る。
「あああっ、私のっ」
「もう、センセったら、さっきからボケっとしてるからよ」
悪びれもせずナウバの実を咀嚼するスカーレルに、文句の一つでも言おうとした時、苦笑を含んだ声が遮った。
「もう…何をやっているのよ」
「アルディラ…」
スカーレルとは反対側に座っていたベイガーの女性が、苦笑しながらこちらを見ていた。
彼女にはたかが果物、と言われそうだけれど、私にとってはされど果物だ。
「だって、私のナウバの実が…」
「まだ沢山あるわよ。はい」
ぽとりとアルディラの皿から自分の皿にナウバの実が落とされた。
「いいんですか?」
「まだ沢山あるって言ったでしょう。それに貴方ほど、この果物が好きじゃないもの」
「あはは…、ありがとうございます」
礼を言ってから、 スカーレルに向き直る。
精一杯の嫌味をこめて、
「いっぱいあるそうですよ、スカーレル?」
「聞こえないわよー」
「もうっ」
笑いながら耳をふさぐスカーレルに、アティも笑う。
後方から聞こえる抑えた笑い声に、ますます笑みを深めて。
ああ、なんて。
改めて周りを見渡せば、目に入るのは笑顔ばかりで。
目があった自分にとっての初めての教え子に、私はとびっきりの笑顔を向けた。