捧げもの
□終わりを告げる声
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もう、いいのだ、と。
そう言ったあの声。
…――きっと、ずっと忘れないから。
†††
"忘れられた島"のある日の昼間。
暖かな陽が降り注ぐ、風雷の郷、鬼の御殿の縁側で。
「良い天気ですねぇ」
「ええ…」
赤い少しクセのある長い髪の女性と、銀色の真っ直ぐな髪を結い上げた鬼人の男性がゆったりとお茶を飲んでいた。
男性――キュウマは、女性――アティの穏やかな笑顔に目を細める。
先日まで彼女のこんな笑顔は見ることができなかったから。
碧の賢帝が砕け散った後の彼女は見ているだけで辛くなるような顔をしていた。
数日間、自らの部屋へと閉じこもり、憔悴しきって……。
そんな彼女が、今、こうして穏やかに笑う様が、単純に嬉しい。
決して全ての問題が解決した訳ではないのだけれど、今は彼女が笑うならばそれで充分だった。
……ずっと彼女を見つめていた視線に気付いたのか、彼女がこちらに視線を向けた。
「……っ!」
「どうかしましたか?キュウマさん」
「い、いえ、何でもありません!」
内心大慌てで返事をすると、彼女は不思議そうに首を傾げながらも、そうですか?とだけ言ってそれ以上の追求はしてこなかった。
けれど、彼女はすぐにはっとして、
「間違えました…」
「何をです?」
問うと、少しはにかむように笑う。
「ええと…、キュウマ?」
"キュウマって呼びますから"
そう言われたのは最近のこと。
自分の顔が熱くなるのが解ったけれど、構わずキュウマも笑う。
「はい…アティ」