捧げもの
□手のひら
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例えば、気遣うような手のひらや、
心配気に囁かれる私の名前。
遠い昔に諦めていたそれらのもの。
…――けれど、
†††
レムオン・リューガはいつものように執務室で雑務をこなしていた。
「……………」
…――いや、違う。
書面を走るペンはともすれば戸惑うように止まろうとするし、視線もどこか遠くに飛ばすことが多かった。
…――トントン
静かなノック。
「……入れ」
「失礼いたします」
入ってきたのは、どこか深刻そうな顔のセバスチャンだった。
レムオンは完全に仕事の手を止め、セバスチャンに問うた。
「セバスチャン……あいつは…」「ええ…」
いつになく覇気のないレムオンの声音に、セバスチャンも顔を曇らせる。
「流行り病ではなかったようです。医者の見立てによると、疲れていた上に少しひどい風邪をひいてしまったので、あれだけの高熱がでたそうです」
「そうか…」
"あいつ"とは……イルティ・リューガ――表向きレムオン卿の母親の違う妹とされている冒険者の少女だ。
今朝、彼女は弟のチャカと仲間達により、意識のない状態でリューガ邸に運び込まれた。
『俺たちじゃ、薬を買ってやれないんだ……っ!だから、頼む!レムオン!』
チャカの泣きそうな程の必死な顔と……イルティの今まで見たことのない衰弱した姿。
『解った』
突き放す事など考えもしなかった。
「チャカはどうした?」
「イルティ様のベッドの傍で眠ってしまわれたので、客間へ移しました」
「そうか…。医者は」
「お帰りになりました」
その言葉にレムオンは席を立つ。
「…行ってくる」
「はい…」
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