Zill O'll Infinite
□ありがとう、を貴方に
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この子は私達とは別人。
喜びや悲しみ。幸せも不幸も。
きっと、違う形をしているのだから。
だからこそ、誰より願う。
幸せに、なって?
†††
リューガ家の元当主の奥方が懐妊したという報は直ぐに身内やかつての仲間たちに知れ渡った。
本人と旦那様は各地を旅していたが、たまたま風邪気味の時にロストールへ行き、心配性の旦那様が医師に診察させてみれば妊娠3ヶ月だった次第である。
ノーブルにいた弟のチャカや近隣にいる皆はともかく、テラネの二人組やエンシャントのユーリス、はては友人である現ディンガル帝国国王ザキヴまでが祝いの手紙を寄越してきた。
(みんな……嬉しそうだったなぁ)
リューガ邸の自らの部屋でぼんやりしながら、イルティ・リューガは口元を緩めた。
我が事のように喜んでくれるかつての仲間達。
自分は幸せ者だと、心から思う。
時が過ぎても変わらぬ絆を得られた事はとても嬉しくて、幸せなのだと…――
…――なのに、
先ほどまでの笑みが陰った。
たくさんの『おめでとう』を貰った。
けれど、一番欲しいのは、違う人。
嬉々として妊娠を告げた時に見せた彼の顔。
驚愕の後に現れた、あの表情。
(分かりやすいなぁ)
無理やり苦笑しようとして、失敗した。
彼のあの表情の理由なんて、判るけれども解ってなんてやらない。
解ってなんて、やるものか。
視界が霞んだが、泣くのは馬鹿らしくてきつく目を閉じて溢れそうになる涙を押さえ込んだ。
――トントン。
「…――っ!!」
「イルティ?」
なんというタイミングだろう。
必死になって顔に笑顔に見えるであろうものを浮かべる。
「レムオン?入っていいよ」
言うと、ドアを開けて彼が入って来た。
金髪の長い髪に、旅装ではない懐かしい貴族然とした服装。
出会ったばかりの頃に戻ったような彼。
そして、それは外見だけでは無いのだ。
体調を気遣ってはくれるものの、どこかよそよそしい態度。
真っ直ぐに向けてくれた優しい瞳や暖かな笑顔は、何処にいったのだろう。