Zill O'll Infinite

□企み
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――彼女が訪ねて来なくなってから数ヶ月が過ぎた…――

ベルゼーヴァ・ベルライン帝国宰相の執務室。宰相閣下は目の前の数枚の調書を見るとは無しに見ていた。

……ティナ・オズワルドが傲慢の首飾りを入手……
……焦燥の耳飾りを奪取……
……束縛の腕輪を奪取……

原因はこれらだ。
皇帝であるネメアの目的を妨害した上、そのような者には容赦しない、と彼女に言ったのは自分だ。
玄武将軍・ザギヴが居ない今、彼女が政庁に来る理由はない。

わかりきった事なのに――


ドアのノックを聞く度、浮かぶ面影はあの少女のもの。
そして、少女ではないと判った時……失望している自分がいた。


(不思議、だな……)


言葉を交わしたのも、共に過ごした時間もそう多くはない。
それなのに、彼女は自分の心に入り込んでしまった。

最初は気紛れに誘ったのだが、不思議と彼女との会話は楽しく、次の来訪の許可まで出した。今思えば、あの頃から自分はおかしかった。


母の為に慣れない冒険者となり、傷だらけになりながら、それでも優しく美しい笑顔を絶やさない彼女。


(君は、私が君を軽蔑したとでも思っているのか…?)


此処に来る事を望んでないと?――…だとしたら、それは勘違いも甚だしい。


けれど、


その思いは元来、彼にとって不愉快なものの筈だった。

弱さを軽蔑する彼にとっての致命的な弱点となるものだったから。

人類の革新の為なら、あんな少女ぐらい殺せなければいけなかったから。

けれど、もう思いを捨てるつもりも、彼女を殺すつもりも彼には無かった。

ならば



――ならば、そうならない状況を自分が作れば良い。



そう思った。

彼女の身も心も手に入れ、革新さえも遂行させる、そんな状況を――

自分の知識と地位と権力を最大限に利用してでも、作り出してみせる。


(先ずは、此処へ来させるのが最優先か。さて、どうする――?)


たった独りの執務室で、宰相閣下は不敵な笑みを浮かべた。





Fin.

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