Zill O'll Infinite

□特別
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8月26日。
この日はティナにとって大切な日であった。

「今日は会議とかありませんよね……?」

ディンガル政庁への道すがら、自信なさげに小さく呟く。
できれば直接逢いたいのだけど。
彼の事だから、誕生日だからって仕事の量は変えたりしないだろう。

「会えたらいいんですが…」

もう一度呟き、苦心して選んだ“最初で最後の”贈り物をそっと胸に抱きしめた。

†††

執務室に通されると、幸運にも彼がいてくれた。

「君か…、何の用だ?」

と、ベルゼーヴァは書きかけの書類から、顔を上げる。

「ベルゼーヴァさんは今日もお仕事なんですね」
「…?そうだが?……ああ、なるほど…」

彼はその整った顔に軽く笑みを浮かべた。

「今日が私の誕生日だと覚えていたのか?」
「ええ、記憶力は良い方なんです」

聞いたのはかなり前だったが、一度も忘れたことは無い。

「あの…これ…帝国宰相様に渡すには、かなり安っぽい物なんですけど…」

おずおずとティナは持ってきた贈り物を彼に差し出す。

「これは光栄だな。天下の竜殺し殿に贈り物をされるとは」
「……その名で呼ばないで下さい」
「フフ、すまない」

包みを受け取り、さっそく彼は包装を剥がし、手のひらサイズの小箱の蓋を開ける。中には一対の耳飾りが入っていた。

「この前、リベルダムのお店で見つけたんです。ベルゼーヴァさんに似合うんじゃないかと思ったので」

言い訳するような口調で言うと、伺うように、不安そうに彼を見つめた。
彼はじっと耳飾りを見つめ

「ありがとう……大切にさせてもらう」

ひどく優しげな笑顔を浮かべた。彼のこんな顔は見た事が無くて、反応に困っていると

―――トン、トン

「ベルゼーヴァ様、御来客とは存じますが、至急会議室へお越し下さい」
「わかった。すぐ行く」

そう、士官に返事を返し、彼が私の方を見る。

「ティナ、すまないが失礼させてもらう。――…今度の君の誕生日には、何か贈らせてもらおう」
「――っ!ありがとう…ございます……っ!」

ティナは満面の笑みを浮かべ、頭を下げた。
例えそんな日が来ないと知ってはいても、ただ嬉しかったから…。

†††


後日、『宰相閣下が女性から贈り物を!』という噂が流れ、それ以降ベルゼーヴァは“女性”の正体を知っているネメアにからかわれ続けたが、その耳飾りを外す事は無かった。



fin.

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