Zill O'll Infinite

□女神の描く明日へ
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ロストール。リューガ邸。
レムオンが執務室で書類の整理をしていると、トントンとドアがノックされた。


「入れ」


セバスチャンだと思って声をかけたのだが、


「お兄様、忙しい?」


そう言っておずおずと入って来たのは義妹のイルティだった。
後ろからセバスチャンも紅茶を持って入って来た。


「イルティ、帰って来たのか」
「うん。依頼の目的地が此処だったから。でも…、兄様が忙しいなら帰るよ?」
「いや、忙しいわけじゃない」


そう言って、立ち上がり応接用のソファーに腰掛け、向かいをイルティに勧める。すると、彼女は嬉しそうに腰掛けた。セバスチャンが手際よく紅茶を淹れ、ごゆっくり、と微笑み、出て行った。


「そういえば…、お前"竜殺し"になったそうだな」
「――っ!けほっ、けほっ……。に、兄様まで、知って……!?」
「なんだ、嫌なのか?」


聞くと、彼女は複雑そうな顔をした。


「冒険者としては嬉しいけど…、女の子としては嬉しくない………ってゆうか嫌っ!」
「実際殺したのだからしょうがあるまい?」
「そうだけど……」


いじけてティースプーンで紅茶を混ぜる仕草が幼い子供のようで、レムオンは苦笑した。
そして、ふと思い出し立ち上がって机の引き出しをあけた。


「兄様、どうしたの?」
「…先日、とある貴族からノーブル伯にと渡された物があってな」


目当ての品を見つけ、その包みを開ける。イルティも興味津々でそれを覗き込んだ。


「うわぁ、きれい…」


出てきたのは水晶で花をあしらった髪飾りであった。


「これ、貰っていいの?」
「ああ。これをつければ少しは女らしくなるだろう」


言って彼女の赤い髪につけてやる。
農民出で冒険者で尚且つ"竜殺し"でもある彼女だが、宮中の貴婦人にも引けを取らない美人である事を改めて認めさせられる。

思わず、見とれそうになる。


「に、似合うかな…?」


不安そうに聞いてくる彼女にハッとしてレムオンは笑顔を向ける。


「なかなかだ」
「そ、そう?」


心持ち頬を染めて、嬉しそうに微笑んだ彼女の顔から、レムオンはそっと目を逸らした。


†††


イルティが帰った後。
セバスチャンはカップを片付けながら、大袈裟にため息をつく。


「レムオン様、どうして嘘をついたんですか?」
「……何の事だ」
「あの髪飾り…先々月イルティ様の誕生日用に作らせた物でしょう?」


尋ねると、主はムッとした。


「…盗み聞きでもしたのか。執事失格だぞ」
「イルティ様が教えて下さったんです。まぁ、本当の事は言いませんでしたが…」
「ならいい」


言って、主は不機嫌そうに言い訳を始めた。


「あいつが悪いのだ。2ヶ月も帰って来なかったから…」
「だからって……」
「今頃になって、誕生日のプレゼントだなんて言えるか!」


ハァ…、とセバスチャンは内心ため息をついた。要は、拗ねているのだ。
けれど同時に、主に大切なモノが増えた事が嬉しいとも思う。贈り物を考えていた時の真剣そうな顔をイルティに見せてあげたかった。
彼女との出会いは確実に主に良い影響を与えていた。

彼女ならば主に独りではない幸福な未来を創ってくれるのではないか…そうセバスチャンは思った。





Fin.

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