Summon Night

□しあわせなこと
7ページ/8ページ

『抱きしめられた 記憶がある』


ありがとう。


ありがとう。




†††




――パチパチパチ…


火が、燃える。



燃えているのは――…



制服。


日本で彼女が着ていたという。




『お願いがあるんです。レイドさん』



めったにない、彼女からの頼みを断る訳がなかった。



『見ていて欲しいんです』



それが、彼女の願いだった。




――パチパチパチパチ…



燃えていく。


彼女と彼女の故郷を繋ぐ唯一の物。


燃えゆくそれを見つめる彼女の顔には、穏やかな表情が浮かんでいる。

寂しさも、悲しみも、何も浮かんではいなくて。


彼女が感情を押し殺してはいないという事は解っているのだけど。


「…アヤ」


多分、寂しくて、悲しいはずなのに。



「……アヤ」
「レイドさん……」


彼女はやっと、表情を浮かべた。


笑顔を。


意外なその表情に少なからず驚く。


「私は、此処に居たいんです」


けれど、帰りたいと思う気持ちも消せなくて。


だから、繋がりを燃やしたかったのだ、と彼女は言った。


少しでも未練を断ち切りたかったのだと。


「すみません。格好悪い理由で付き合ってもらっちゃて」
「いや、いいんだ。…私のせ」
「レイドさん、違いますよ?」
「……アヤ?」


引き留めた自分の責任だと言おうとしたレイドの言葉を、アヤが遮った。

いつの間にか浮かぶ優しい彼女の笑顔。


「私が此処に居るのは、私自身の意志です。それに…」
「それに?」
「貴方が居るから、帰りたいって思っても堪えられるんです」

ただ、私は目を見張るばかりだった。


彼女は苦笑を浮かべた。


「けれど、制服を燃やして大丈夫になったかどうか解らないですけどね」
「……君はすごいな」
「そんなことはないんです。ただ、此処に居られるのが何より幸せだからなんです」


彼女は笑う。




「貴方との思い出が沢山残るこの世界に私は居たいんです」






ありがとう。

ありがとう。


幸せなのは私の方なのに。


愛する少女に、レイドやっと穏やかな笑顔を向けた。


「ああ、此処に居て欲しい。ずっと……」


「はい」



ありがとう……。



END.



目次へ

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ