Summon Night

□失わない為に
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夜の歓楽街。

人通りが多く、賑やかなその場所にあまり似合わない人がいた。



「………」


レイドは歓楽街の雰囲気に少し居心地の悪さを感じながら、ある場所へと向かっていた。



――「告発の剣」亭



騎士団の先輩、ラムダが"アキュート"の隠れ家として使用していた酒場。


今日はそのラムダに呼び出されたのだ。




†††





「………来たか」


扉を開けると、一人カウンターに座っていたラムダが振り向いた。

レイドに隣に座るよう示し、彼の前に自らグラスを置く。


他の仲間達は今いないらしい。


「何かあったんですか?」
「いや…、お前に聞きたい事があってな」
「聞きたい事?」



ラムダはすぐには答えず、グラスに酒を注ぎ、レイドが手をつけるのを待ってから、


「……どうするつもりだ」
「何をですか?」
「アヤの事だ」
「――っ!!」



……危うく、口に含んだ酒を噴くところだった。



「……何を、突然」
「心配をしているんだが?」
「心配…?」


レイドが訝しげな顔をすると、


「お前が彼女に何も告げないつもりなんじゃないかと、な……」
「あ……」


レイドは目を見開いた。


「気付いて、いたんですか…?」「まぁ、な……」



(…気付いてないのは当人達ぐらいではなかろうか?)


と、ラムダは思ったが、全く表情に出さなかった。


レイドはグラスに入った琥珀色の液体に目を落とした。


「……彼女には帰る場所があります」
「…そうだな」
「私は、彼女を元の世界に帰してあげたいと思っていました…」
「ああ、知っている」


けれど、








『本来の結界を施したら、召喚術は意味を無くします。……だから、私はその時この世界にいる召喚獸を全て元の世界に帰そうと思ってます』
『そうか……』



強い、瞳。



気付いたのに。



"全ての召喚獸"に彼女が含まれる事に気付いたのに。





…――何故、失いたくないと思ってしまったのだろう。




それは自分の我が儘。


解ってはいるけれど。



「でも、失いたくないんです。彼女だけは絶対に…。それが彼女を苦しめると解っていても」





しっかりとした、思いのこもった言葉。

彼女がどちらを選ぶかは、解らないが、


「……大丈夫そうだな」
「はい。ありがとうございます」


レイドは穏やかに笑った。









…――いつか、必ず伝えよう。



『君を、失いなくない』と、彼女に……
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