Summon Night

□遠き日々に
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「………」


その日の夜中。
ネスティはトリスの枕元に座っていた。


『風邪だとは思うんですが、かなり体力を消耗しているので、暫くは動けないと思います』


アメルの力で、だいぶ熱は下がったものの、トリスは目を覚まさない。


さっきまで仲間たちが、寝る前に彼女の顔を見に来ていたが、流石にもう皆は眠ってしまっているだろう。



――自分も眠って構わないのだが…



いつも元気だけが取り得のような彼女の苦しそうな顔を見ていると、どうしても独りにしておけなかった。


「……う〜?」
「トリス?」


うっすらと目を開けたトリスはのろのろと視線をこっちに向けてきた。


「……ネス?………あれ、もう夜?」
「熱のせいで昏睡状態にちかかったからな。……朝から具合が悪かったのか?」


茫洋とした精神状態でも、どうにか状況を察したらしいトリスは頷く。


「どうして、言わなかった」
「だって、今みんな大変だから……」
「君はバカか、どうして何も言わないんだ」


少し怒ったような声にトリスは泣きそうな顔をした。


「ごめん……」
「ああ、元は君が言ったんだ。忘れるんじゃない」
「…え?」
「まだ、君が派閥に来て間もない頃、僕が今の君のように体調の悪さを隠してたら――」


『ネスのバカ!どうして何も言わないのよ!』


「……と言って頭を叩かれた記憶があるが」
「よく、覚えてるわね…そんな事」
「君と違って、記憶力はいいからな」
「む〜…」


頬を膨らませて拗ねるトリスに苦笑して、言った。


「覚えているから、今度はちゃんと言うんだ。わかったか?」
「うん…、ありがと、ネス」




あの頃から変わらない屈託のない笑顔で、彼女は笑った。


何よりも大切な、失いたくないもの。

それは、今も、昔も、未来も変わらない。


「さあ、もう寝ろ」


ずっと、守り続けよう。

この笑顔を、君を。






END.
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