Summon Night

□伸ばした手
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そして、夜。

「…………」

アヤはともすれば止まりそうになる足を引きずるように、歩いていた。


……行きたくない訳では、なかった…――――


――だからこそ、



アヤの足が、止まる。

見つめる先には屋根に上がるための梯子。


――もう、来ているだろうか?

アヤは挑むような想いで、梯子に足をかけた。


     †††


「すみません、遅れてしまって」
「いや、気にしなくていいよ」



空には満天の星。そして、大きな丸い月。

彼の隣に腰掛けると、あの頃が思い出された。
けれど、いつもと同じ笑顔を浮かべるアヤとは反対に、レイドは朝と同じ真剣な顔をしていた。


「レイド、さん……?」
「……アヤ」


レイドは真っ直ぐに彼女の瞳を見つめ、


「すまなかった……」
「…え、ええ!?」

いきなり頭を下げた彼を前に、アヤは大いに慌てた。

「ど、どうしたんですか!?…と、とにかく、顔を上げて下さい!!」
「………」


顔を上げたものの彼の顔には悲痛な表情が浮かんでいた。


「何故、レイドさんが謝るんです…?」
「…前に、私が言ったことを、覚えているかい?」
「前に言ったこと…?」


何の事かと、アヤは首を傾げた。




「君ならば、本当の答えを見つけられる、と」

「………っ!?」




アヤは目を見開いた。

「……そ、それはレイドさんが私を信頼してくれたから言ってくれたんでしょう?」

私は嬉しかったんです。とアヤが言っても、彼の顔から憂いは消えない。

「けれど、真面目な君を必要以上に追い詰めてしまった」
「私、は……」
「気付いてないと思ったかい?独りで悩んでいた君は、潰れてしまいそうに、私には見えた…」
「…そんな事、ありませんよ」


アヤは大きく息を吸って、眼前に広がるサイジェントの街の灯を見ながら、言葉を紡ぎ出した。

「私は……誓約者です。正しい答えを出さなくてはいけないんです」


―そう、それが私の使命だ。


「私はちゃんとやり遂げますよ。だから…大丈夫です」
「嘘だ」
「レイドさん…」


アヤはレイド方へ顔を向ける。


「君は今、泣きそうな顔をしているのに、"大丈夫"ではないだろう…」

「…え?」


レイドの手のひらがアヤの頬に重なる。


――…暖かい。


その暖かさにアヤの顔がくしゃりと歪み、双眸から涙が落ちる。


「私、私は――」
「なんだい?」
「此処に…あなたの傍に居たいから、答えを、先延ばしに、したんじゃないか、って……」


―解らなくなってしまった。考えれば考える程。そこに私情が入ってなかったかかどうか……
彼と話していると楽しくて、騎士団の務めで忙しいと解っていても、会えない事が寂しかった。

何時だったか、彼にもし結界を施したらどうするのかを話した時「そうか…」とだけ言って、何も言わずにいてくれた。


「…これから先、この想いのせいで、答えを、出せなかったら、私は…」


レイドは何も言わずに彼女の涙を拭った。
――いや、何も言えないでいた。何を言っても彼女を苦しめる事を理解しているから。


けれど、

私は、君を失いたくないから…――
例え、誓約者であろうとも、彼女は"アヤ"という少女なのだから。


「――…忘れないで欲しい。君がどちらの選択をしても、悲しむ者はいる事を。…少なくとも、私は君に居なくなって欲しくない」
「…言わないで、下さい。そんな、事…」
「普遍的な答えなど、何処にもない。だから、君が後悔しない答えを出せばいいんだ。どんな答えでも、私は君を信じよう」
「…………」


アヤは何も言わずに、ボロボロと涙を零し、




―…誰か、誰か私を――



――――助けて下さい…―――




――…恐る恐る、手を伸ばし、彼の頬に触れた。


レイドは優しく微笑み、彼女の手に自らの手を重ねる。

そして、

彼女の手を取って引き寄せ、彼女の体を強く抱き締めた。


「何処にも、行かないでくれ…。ずっと、傍に…」







…望む答えなんて、ずっと持っていたんです。ただ、弱い私は、怖くて選べなかったんです。
私の望みが誰かを不幸にしたらと。

けれど、もし、望む事が許されるなら、貴方に、信じてもらえるなら…――






「………はい……」







故郷とは似て非なる星空の下、少女は幸せそうに微笑んだ。




END.
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