Summon Night

□手を伸ばしたその先に
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第二章


藍色に滲む空に急かされる思いで、フラットへの道をたどる。

レイドはフラットへ帰る途中、市民公園でアヤを見つけた。
彼女はベンチに座わり、俯いて地面を見つめていた。
元の世界に居た時も、家に帰らずに公園で考え事をしていたと聞いたことがあったから、きっと今回もそうなのだろうと思う。

そして、考えている内容はあまり楽しいものではない気がした。

隣を歩く彼女は沈黙を恐れるように、いつもより頻繁に話しかけてくる。
必死に何かを隠している、その様がいじらしくて、胸が詰まった。

「…っていうお菓子を教えてもらったんですよ」
「リプレの得意なお菓子だね。今度、食べさせてくれるかい?」
「はい!」

にこりと笑うアヤに同じく笑みを返してからも、それは、消えてはくれなかった。

彼女が本音を吐き出せる場所ではない事。それが、情けなくて、悔しくて。
誰かに、いや、自分にだけは心をさらけ出して欲しかった。
それは彼女の為ではない、自己満足のための我が儘だと気付いてはいるのだけれど。

だからそれを言うには多くの努力が必要だった。

「…アヤ」
「なんですか?」
「何か、心配な事でもあるんじゃないのかい?」
「そんなことないですよ」

そう言って向けられた少しだけ困ったような笑み。
じっと彼女の表情と瞳を見つめる。
何も逃さないように。

「"答え"…かい?」
「え…」

アヤは驚いたようだった。
表情が笑顔を漂わせたまま強張った。

「なん…で」
「君のことだから、ずっと考えているんじゃないかと思ってね」
「…それは、当たり前です。私は誓約者だから」
「だから心配なんだよ。君はそのことにとても責任を感じているから」

どうすればいいのか、自分にそれを見つけ出せるのか、考えて考えて。
きっと考え続けているだろうから。
そして、それを決して彼女は表にださないだろう。
自分が辛いということよりも、受け取る側の事を考えすぎるから。

「もし苦しんでいるのなら、私に相談してほしいんだ」
「っ、違います…」
「え?」
「違います…」

突然アヤは立ち止まり、レイドは一歩進んでしまってから振り返った。
彼女は俯いていて、その表情は見えない。

「私は…悩んでなんかいません」
「アヤ…?」
「決まっているんです。もう…」

息を詰めた。
夕闇が彼女の表情をさらに覆い隠す。

「結界を…張ります。そして、その時点で全ての召喚獣を元の世界に戻します」
「全ての、召喚獣…?」

それは、

「君も、なのか」

彼女は首を縦に振った。

「近い内に、皆さんにもお話しします」
「…アヤ、君は」
「それだけ、です。先に行ってますね」

レイドの声に被せるようにそう言ってアヤは走り出す。

「…あ」

横を通り過ぎ、レイドが振り向いてからも速度を緩めることなく、彼女は走って行く。

何かが壊れていくような、失ってしまうような気がして、レイドは立ち尽くすしかなかった。


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