Summon Night
□手を伸ばしたその先に
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序章
いつからだっただろう。
目を閉じて自らの手のひらを包んでくれているぬくもりを感じながら、私は考える。
こんなにも大切で、愛おしくて、離れがたくなったのはいつからだっただろう。
目を開いて隣を歩く彼を見上げれば、気づいてくれた彼がどうしたのかと目顔で問いかえしてきた。
何とはなしに見上げただけだったから、顔に笑みを乗せ軽く首を振る。
ほっとしたように笑みを返す彼を見つめれば、苦しくなる程、感情が胸に満ちた。
(ああ…何て愛おしいんだろう)
胸を占めた大切な感情を感じたその時に、降り積もった記憶が粉雪のように舞い上がって一つの情景が浮かぶ。
…――『行ってらっしゃい』
優しい女性の声。
それは始まりではなく、全てが始まったあの時の記憶。
今こうして彼の隣に居ることができるのは、あの時の選択の結果だったから。
「ねえ、レイドさん、覚えていますか?」
アヤは微笑んだまま、語りかける。
誰よりも大切な、たった一人の人に。
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