Summon Night

□祭りの夜
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「お祭り、ですか?」


こちらの世界に来て久しく聞いていなかった言葉だったから、アヤは少し不思議そうな顔をした。


「ああ、領主が再開するって言ったらしい。……何年ぶりだろうな、祭りなんて」


そう言って、ガゼルが嬉しそうに笑った。

どうやら、今日リプレとガゼルが買い物に行くと、広場に立て札が立っていたらしい。

『ニ週間後にこの場所で、祭りを執り行う  領主』

という簡素な物だったが、街の人達を喜ばせるには充分だろう。

先の"無色の派閥の反乱"の折り、領主は城下へ逃げる事を余儀なくされた。

その時に、領主は何度かマーン兄弟の屋敷を抜け出して、サイジェントを見て回ったらしい。
反乱の事後処理が終わった後、領主はまず、職人より下に課せられている税金の引き下げを行ったのだ。

マーン兄弟――特にイムランが反対したのだが、領主が押し切ったらしい。


『サイジェントの街に住む、全ての者に一刻も早く笑顔を――…』


領主がそう言っていたのだと、軍事顧問であるラムダが教えてくれた。

まだ、全てが良くなった訳では無いけれど。
税金の軽減は人々の生活に余裕を与えた。

そんな時のお祭りである。


「そうよね、もう3、4年になるのかな?最後のお祭りから」


リプレも年相応の女の子らしく、嬉しそうだ。
そんな二人の嬉しげな様子に、アヤも自然と笑顔になる。


「こっちでは、どんな出店が出るんですか?」
「そうだな。…ウインナー、かき氷、焼き菓子に団子だろ……」
「……ガゼル、食べ物ばかりじゃない」
「あははは……」


まったくもう、と言ってリプレはアヤへ向き返る。


「食べ物だけじゃなくてくじ引きとか、手作りの雑貨だとかもあるわよ」
「うーん、じゃあ、あまり私の世界のお祭りとは違わないですね」
「そっか、なら違和感なく楽しめるわね?」
「はい!今からとっても楽しみです!」


そう言ったアヤにガゼルが、でもよ、と声をかける。


「多分、レイドは来られないぜ?」
「…あ。」


アヤの笑顔が曇った。


「あいつは今や副団長だからな。身分的にも、まぁ性格的にも、部下を休ませて、自分が警護に回るだろ」
「そう、ですね…レイドさんなら……そうしますよね」


大丈夫。

解っているから。

だから、


「しょうがないですよね……」


そう言って笑ったアヤに、リプレとガゼルは何も言えなかった。
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