Summon Night
□くれたもの
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空を、見ていた。
満点の星空を。そして、まるく冴えた月を。
ここはシルターンの言葉で"エンガワ"というらしい。
座って、星を眺めている。
この島の星空は何度見ても、飽きる事はない。
それ程に、美しい。
――…キシリ…
床の軋む音に振り返るのと同時に、
「アティ…?どうしたのですか、こんな夜分に」
「キュウマ…」
少し微笑んで立っている彼に、アティも笑みを返す。
そして、また空を見上げる。
「きれいだなぁ…って思って、見ていたんです」
「空なんて、いつも見てるでしょうに」
そう言いながら隣に腰掛けた彼も、星空を見上げて目を細めた。
そして、二人はしばらくの間、黙って空を見上げていた。
アティはそっと、隣の彼を見た。
寝間着に着替え、髪を下ろすとだいぶ印象が変わる。
その真っ直ぐな髪が、とても羨ましいなと思う。自分と交換してほしい。
「アティ…」
「え、あ、はい!?」
突然、彼が空を見上げたまま名を呼んだ。
「帰って来てくれて、ありがとうございます…」
「え…?」
意味が解らず彼を見つめると、キュウマは真っ直ぐに彼女の目を見て、微笑んだ。
「本当は、少し……不安だったのです。生まれ育った国の暮らしを捨ててまで、あなたがこの島に帰って来てくださるのか、と……」
「そんなこと……!?」
「ええ…、自分の杞憂でした。けれど、自分は本当に貴女に会いたかったんです。傍に、居て欲しがったんです」
「キュウマ……」
少し顔を赤くしながらキュウマは言った。
「なら、私もキュウマにありがとうを言わなくちゃ」
「はい?」
アティは花のような笑顔を浮かべた。
「貴方が居たから、私はこの島を守れたんです。貴方が居たから、私は笑顔を忘れなかったんです。それから……」
「それから…?」
「この暖かな場所を貴方は私にくれた…」
誰かの為でなく、心からの自分の笑顔を浮かべられる場所。
肩の力を抜いて、弱音を吐いてもいい場所。
此処に居るだけで、幸せだと思えるのは、
『貴方が居てくれたから』
「だから、ありがとう。キュウマ…」
そう言ったアティの体をキュウマは強く抱き寄せた。
「二人で幸せになる、と約束したんだから、当たり前じゃないですか…」
「うん……」
彼の背に腕を回して、アティはその暖かな場所で、ゆっくりと目を閉じた。
『ありがとう…』
END.