Summon Night
□誰より、優しく……
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「リクト様…」
鎮守の社―風雷の郷の戦死者達が多く眠るその場所で、キュウマはかつての主君の名を呼んだ。
恩人である彼の墓の前に跪く。
「申し訳…ありません」
最後の約束を守れなかった事。
何も言わず、ミスミやスバルの前から去った事。
そして、彼女に何も説明もせず、自らが消える事で全てを終わりにしようとしている事。
(多分、貴方は怒っているのでしょうね…)
いつだって真っ直ぐに感情をぶつけてきた主君。怒ると本当に怖かったのを覚えている。
「……っ!?」
石段を登る足音。キュウマは素早く物陰に隠れて気配を消す。
そして、石段を登って来たのは――
(アティ殿…)
彼女は辺りを見回しながら、社の方へ歩いて行く。どうやら、自分を捜しに来たらしい。
(貴女は、やはり、あの方とそっくりだ…)
犠牲にしようとしたのに。
自分の願いの為に彼女の心を壊そうとしたのに。
それでも、貴女は私を探してくれる…。
今、自分が泣きそうな顔をしていることをキュウマは知らない。
彼女は社の付近にキュウマの姿が無いのが解ると、社の前で立ち止まった。そして、そのまま立ち尽くしている。
(…………?)
何を、しているのか。
盗み見た彼女の表情はとても穏やかで…―――
――――待っているのか、自分を………
(貴女は、ずるい…)
そして、誰より優しい。
"彼女の為に"自分は外へ出て、思いを吐露することができる。
『貴女に諦めてもらう為に』と…―――
(貴女には、かないません…)
一つ、苦笑を落として、
「いつまで、そうしているおつもりですか?」
誰より優しく、ずるい彼女のもとに、キュウマは歩き出した。
END.