Short Story

□Spring has come!
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ぽかぽか陽気な日曜日。

あたしの必須アイテム、メガネとマスク。




《Spring has come!》





「…っくしゅん!」

「さっきから辛そうだなー、大丈夫か?」

「大丈夫…じゃない…」


外は快晴、今日は日曜日。

ついでにブン太の練習も休みで、まさにデートにはうってつけな休日。

なのにあたしとブン太は、窓を閉め切った部屋にいた。


「大変だよなぁ、花粉症。」

「うー、目痒いー!」

「あ、お前かきすぎると赤くなんぞ!」

「だって痒いんだもん!」


目が痒い。くしゃみが止まらない。

そう、あたしは花粉症なのだ。

この時期は、マスクとメガネなしじゃ外になんて出れたもんじゃない。

晴れた日なんて尚更。


「ごめんね…ブン太…。せっかくの休みなのに…」

「なーに言ってんだ。いいっつの。それより。」

「それより?」

「何で部屋の中でもマスクとメガネしてるわけ?」

「え!」


じーっとブン太に顔を覗きこまれる。

あたしは慌てて、顔を逸らした。


「…何で顔逸らすよ。」

「え、や、突然覗かれたからびっくりして!」

「今更?なぁ、こっち向けって。」

「やだやだ!無理!」

「はぁ?」


段々と不機嫌になってきた声が、後ろから聞こえる。

あたしだってブン太と一緒にいられる時くらい、ずっとくっついていたいけど。

出来ない理由があるんだもん!


「…お前辛そうだし、俺帰るわ。」

「え、ブン太、」

「顔も見たくねーんだろぃ。」


振り返ると、そこには眉間に皺を寄せたブン太がいて。

今度顔を逸らされるのは、あたしの番だった。

まずい、と頭の中で警報が鳴る。

そんな間にも、ブン太はさっさと帰り支度を始めて。

あぁ、もう。こうなったらヤケだ。


「ブン太!」

「あぁ?」

「…これ見て!」


きょとんとするブン太の前で、マスクとメガネを外す。

相変わらずブン太は目を丸くしたまんま。

嫌われるかもしれないけど、ここまできたら後には引けない。


「…えーと?」

「…顔、ひどいでしょ…」

「は?」

「だから顔!目も腫れちゃってるし、鼻もかみ過ぎで赤いし、鼻水は出るし…」

「…」

「こんな顔、ブン太に見られるの嫌だったの!」


この時期のあたしの顔は本当にひどい。

自分で鏡を見るのも嫌になるほど。

こんなの、ブン太に見られるのだけは避けたかったのに。


「…ぷ、あはははははは!」

「ちょ、そんな笑わないでよ!あたしだって嫌なんだから!」

「違う違う、そんなことかって思ってさ。」

「そんなことって…!」

「別に俺、気になんないけど?」

「え…?」


ブン太はにっこり笑ったかと思うと、あたしをゆっくり抱きしめた。

あたしの好きな、ブン太の匂い。


「どれだけ目腫れたって、鼻赤くなったってお前はお前だろぃ。」

「そうだけど…」

「だけど何?」

「ブン太の前では、いつも可愛く居たいんだもん…」


瞬間、抱きしめられた腕に力がこもる。

ぎゅう、って押し付けられた体温が嬉しい。


「バーカ。俺の前でのお前は、いつだって可愛いっつの。」


そんな殺し文句と一緒に、優しいキスをくれた。






花粉症なあたしでも、今年は春を好きになれそうな、そんな予感。













**fin**
テーマは『春』。相変わらず、ブン太になると拍手とは思えないほど長くなります(笑)
ブン太はあぁ見えて、器のでっけー男です。

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