連載

□act.1‐scene.2
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──思い出す。
笑顔だったアンタが、一瞬だけ見せた憂いの表情。
真っ白なキャンバスに淡く落とされた、黒い絵の具のような陰。

「白虎……」

次に会ったときはもう少し素直になれるかな。
アンタの抱える闇を、少しでも代わってやれるかな。
なぁ、カミサマ。

「やっぱ独りはさみーね」

俺は祈ることしか出来ないけれど。
アンタが独りじゃなきゃ、それでいーや。



 act.1‐scene.2



「結局振り出しだな」

繁華街から少し外れれば、人気は全くなくなる。
此処、穢土は今やそういう土地だ。
一昔前はそうでもなかったはずだが、いつの間にやらこの傾向は全土に広がってしまっている。
人間に与えられた然るべき末路かと、白虎は思った。

「他に手掛かりねぇの? お前、紫音のことちっとは知ってんだろ」

「だから会ったことがあるだけだって。此処が唯一の手掛かりだったんだもの、仕方ないじゃない」

四人は三年前、白虎が紫音に会ったというビルに来ていた。
三年も経ったというのに様子は全く変わっておらず、白虎は懐かしさに思わず眼を細めた。
しかし今、此処に紫音の姿は見当たらない。
いったい何処を遊び回っているのだろうか。
──そう言えば博打で生計立ててるんだっけ?
もしかしたら賭場にいるのかも知れない。
この界隈には腐るほどある賭場から紫音を捜し出さなければならないのかと思うと、気が遠くなる。
しかしそれも止むを得ないことだと白虎は自身に言い聞かせた。

「今も此処を根城にしている可能性も否定は出来ん。玄武、此処で見張っていてくれ。俺たちは外を捜しに行ってくる」

「判った。一応、ルックスとか教えといてくれ」

「変わってなければ長めの黒髪に青紫の垂れ眼よ」

「りょーかい。お前らも、しっかり頼むぜ」

「承知した。では二人共、行くぞ」

蒼龍の声に、朱雀と白虎の二人は眼で返事をした。
水、火、風がそれぞれ主を包み込み、その身を運ぶ。
三人が姿を消すのを見送ると、玄武は溜め息を吐いて窓の外に眼を遣った。

「早くツラ見せろよ」

──白虎と再会する前に、此処に来い。
深い闇の中に一度も会ったことのない紫音の姿を見た気がして、玄武は虚空を睨め付けた。
眼を閉じれば浮かぶ顔。
今も忘れられない、脳裏に焼き付いたあの頃の白虎。

「あんな白虎は……二度と見たくねぇけど」

──変えてくれたお前には感謝してる。
でも、白虎にはもう二度と会わないでほしい。
それは、俺の勝手なエゴでしかないけれど。

「このままじゃ、前に進めねぇんだよ」

俺と白虎の関係が。
そして何より、俺自身が。
お前に出来たことが俺には出来なかったと、眼の前に突き付けられるのが何より屈辱だと気付いたから。

「早く来いよ、紫音……」

──決着つけようぜ。
だだっ広い部屋の真ん中に一人佇む玄武は、己が拳を力いっぱい握った。
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