短篇

□おもちゃ箱
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 子供は、あんたたち大人に振り
回されるために生まれてきたわけ
じゃないんだ。

「……ここんとこ悩んでたのは、
この所為なんだ」

 ドラマか何かみたいだろ? そ
う言って笑って見せたのは、ただ
の痩せ我慢でしかないのだろう。
彼は弱くないが、そこまで強くも
ない。きっと、心では泣いている
のだと思った。

「美咲は? あいつはどうしてる
んだ」

 小学校以来の親友、菅原真咲に
は二卵性双生児の妹がいる。それ
が美咲だ。彼女を含む三人でつる
むことが昔から多く、そのため彼
女には少しやんちゃなところがあ
った。それは彼女の持ち味でもあ
るのだが、母親には「もう少し女
らしくしてちょうだい」と最近よ
く嘆かれているらしい。気持ちは
判らないでもないが、ジェンダー
フリーを謳うこのご時世に、その
台詞はあまりにも不自然だった。
 そして真咲はというと、美咲と
は二卵性なので見た目は似ていな
いが後天的要素である性格がそっ
くりで「男の子らしい」やんちゃ
な人間だ。それは高校生になった
今でも変わらない。むしろ、エス
カレートしているくらいだ。そし
てそれは、やはり彼の持ち味であ
り、美咲とは違って、咎められる
ことは一度もなかった。
 真咲と、美咲と、俺。三人集ま
っては、いつも何かしら騒ぎを起
こして怒られるということを繰り
返していた。
 つい最近になって、ある異変に
気付いた。いつだって明るく、時
には煩く感じるほどだった真咲と
美咲が、妙に大人しいのだ。傍に
いる俺だけでなくクラスメイトや
教師なども気付くほどの静かさ。
不審に思って問い詰めてみると、
真咲の口から思いがけない言葉が
飛び出した。俺は自分の耳を、脳
味噌を疑った。そんなはずはない
──そうも思った。
 真咲と美咲の両親が離婚して、
二人──俺も入れると三人になる
が──が離れ離れになってしまう
なんて。

「あいつは部屋に籠もりっきり。
ろくに食事も摂らないし、俺すら
寄せ付けない。気持ちの整理がで
きていないんだろうな。このまま
食べないで死んだりしたら嫌でも
離れなきゃいけないっていうのに
……」

「兄」の顔で笑う真咲を見て、違
和感を覚えた。いや、どちらかと
いうと怒りなのかも知れない。何
故笑っていられるのか、俺には理
解できなかった。

「真咲」
「お前ともお別れだな。淋しくな
るけど長い間、一緒に馬鹿やって
くれて嬉しかった。ありが」
「真咲!」

 彼の胸倉を掴む。殴りかかろう
と思ったが、彼の目を見たらその
気が失せた。彼の目に映った俺の
顔が情けなく歪んでいた。これは
怒りではない、哀しみなのだ。

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