短篇

□明るい未来
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「……そう、判ったわ」

 反対する理由は何処にもない。
確かに、物書きは安定した収入を
得られる職業とは言いにくい。打
ち明けられたのが今ではなく以前
なら、間違いなく反対をしていた
だろう。
 しかし、今は状況が違う。今年
の入試に間に合わないどころか受
験を続けること自体困難なのだ。
そもそもこんな大きなショックを
受けたのだから陽平が自殺を図る
危険性だって素直に否定はできな
い。その状況下で陽平はこれから
への意欲や希望をぶつけてきた。
これは母親として真正面から受け
止めるべきだし、後押しもしてや
るべきだ。
 だから私は心に決めた。自分の
余生は息子に捧げ、陽平の夢の手
助けに全力を注ぎ込む、と。

「お母さんは頼りないかも知れな
いけど、できる限りのことはして
あげるから。安心して好きなこと
に打ち込みなさい」
「母さん……」
「ただし、途中で投げ出すような
ことがもしあったら、お母さんも
あんたを見放すから、そのつもり
でね」
「ありがとう」
「あんたの人生だもの、思うよう
に生きなさい。それが、お母さん
にとっても幸せなんだから」

 行く先を真っ黒に塗り潰されて
息子の希望や夢は潰えたかのよう
に思われた。しかしこの子は試練
を乗り越え、自分の未来に一筋の
光を見出し、その光へ向かいこれ
からを生きると言ってくれた。う
まくいくかどうかなど、今はまだ
判らない。これからの道も厳しく
険しいものとなるだろう。だが、
その壁に立ち向かっていく覚悟は
陽平も私もとうについていた。
 我が子が本当にやりたいことを
目指して一生懸命生きてくれるの
なら自身の人生など安いものだ。
親はいつだって子供の幸せを一番
に願っている。それは私とて同じ
こと。つまり、陽平の将来のため
に手助けすることは陽平のためで
あり、同時に私のためでもあるの
だ。だから、私も全力でサポート
する。我が子の輝かしい未来──
私たちの幸せのために。
 私の願いはただひとつ。陽平の
未来が、光り輝く明るいものとな
ること。そのためなら私はどんな
ことだってしてあげる。
 だから陽平、どんな試練にも挫
けないで生きていってちょうだい
ね。


           【了】 



■ 奥付 ■□■
部誌『紋』第六号掲載
発行≫2006/01/16
御題≫『光』

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