短篇

□おもちゃ箱
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「巻き込んじまって、悪いな」

 その台詞にはっとした。そう、
真咲は悪くなどない。こうなった
のは彼らの両親の所為で、俺たち
三人は被害者でしかないのだ。
 やるせなかった。親の勝手な都
合に振り回されて、反抗すること
もできないなんて。

「俺も大人げなかった。ごめん」

 素直に謝って手を離し、真咲か
ら視線を逸らした。何となく気ま
ずい雰囲気が室内を漂う。居心地
の悪さは感じながらも、お互いが
何と話を切り出して良いのか判ら
ず黙り込んでいた。すると、その
ときだった。

「真咲兄……悠介来てるの?」

 小さく二回ノックする音が聞こ
えて、俺たちはすぐさまそちらを
見た。
 ──美咲だ。美咲がやっと部屋
から出てきたんだ。
 真咲の思考まで判らないが、き
っとそう思ったに違いない。らし
くない、か細い声で俺の存在を確
かめた彼女に、真咲は俺に目配せ
をしてから返答した。

「ああ。……今、あの話をしたと
ころ」
「そう」
「立ち話もなんだし、入れよ」
「……ん、お邪魔します」

 鈍い音とともにゆっくりと開か
れるドア。隙間から現れた久方振
りの美咲は、心なしかやつれてい
る気がした。

「久し振りだな、美咲」
「悠介は元気そうで何よりね」
「ひとの心配より自分の心配しろ
よ」
「……それもそうか」

 言ってからしまった、とは思っ
たが、美咲はさほど気にならなか
ったようなので安心した。

「美咲、もう良いのか?」

 真咲の部屋に三人、輪になって
座る。その様子は普段、悪巧みを
するときと変わらない。しかし現
在、この部屋に重く沈み込んでい
る静寂や俺たちの顔色、思考など
は、明らかに違った。どうしよう
もない、やるせないといった気持
ちが、この部屋を支配していた。

「うん。悠介にも、真咲兄にも、
心配かけちゃってごめんね」
「いや、美咲が立ち直ったなら良
いんだ。な、真咲」
「もちろん。あまり気にするな」
「ありがとう、二人とも」

 そうは言いながらも、現状は何
一つとして変わってなどいない。
そのことは判っていて、俺たちは
敢えて黙っていた。先程に比べて
少し軽くなった雰囲気がその事実
を口にすることでまた重くなって
しまうことを、俺たちは恐れてい
たのだ。

「そろそろ、帰るな」
「そうか。……今日は、ほんとに
悪かった」
「大変なのはお前らのほうだろ。
俺のことは気にするな。……残り
少ないんだから、仲良くやれよ」
「うん。悠介ともあと少ししかな
いから、いっぱい思い出作らせて
ね」
「おう。じゃ……また明日、な」
「また、明日」

 玄関まで二人に見送られて菅原
家を後にする。以前なら「お邪魔
しました」の一言くらいは両親に
挨拶していたが、あの話を聞いた
後に、とてもそんな気分にはなれ
なかった。俺は後味の悪さを感じ
ながら、玄関のドアをゆっくりと
閉めた。

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